ブラジルの勝ち上がり状況
前回大会でまさかのグループリーグ敗退を喫して3連覇を逃したブラジルは、ディフェンディングチャンピオンのイングランド、2大会前の決勝で優勝を争ったチェコスロヴァキア、ルーマニアと同組のグループ3に入り、初戦で2大会前の決勝の再戦となったチェコスロヴァキア戦を4-1で快勝して大会を白星でスタートさせた。
第2戦でディフェンディングチャンピオンのイングランドを1-0で、最終戦のルーマニア戦を3-2で下し、3戦全勝でグループリーグを首位で通過して準々決勝に進出した。そして準々決勝でペルーを4-2で、準決勝でウルグアイを3-1と、同じ南米勢を連破して2大会ぶりの決勝に進出を決めた。
イタリアの勝ち上がり状況
2年前のユーロを制した欧州王者イタリアはグループリーグで南米王者のウルグアイ、スウェーデン、イスラエルと同組のグループ2に入り、初戦でスウェーデンと対戦して1-0で勝利して白星で大会のスタートを切った。そして第2戦で南米王者のウルグアイ、最終戦でイスラエルと対戦し、ともにスコアレスドローで終わってグループリーグを1勝2分の首位で通過して準々決勝に進出した。
準々決勝で開催国のメキシコを4-1で快勝して準決勝に進出し、準決勝では欧州のライバル・西ドイツと対戦することになった。そして準決勝の西ドイツ戦は歴史に残る名勝負となり、4-3の死闘を制して実に32年ぶりの決勝に進出を決めた。
決勝前の状況
こうして第9回ワールドカップ・メキシコ大会の決勝のカードはブラジル対イタリアの顔合わせとなり、ブラジルが勝てば2大会ぶり3回目の優勝、イタリアが勝てば32年ぶり3回目の優勝となる。また、決勝でのブラジル対イタリアの顔合わせは、ワールドカップ史上初の優勝経験国同士の対戦となり、どちらが勝っても大会史上最多の3度目の優勝となる。
試合(前半)
2分 イタリアのリーヴァがミドルシュートを打ったがGKフェリックスがセーブしてゴールならず。
16分 イタリアがブラシルゴール前20mの位置からマッツォーラがクロスを上げ、リーヴァが頭で合わせたが枠を外れてゴールならず。
18分 ブラジルが左サイドのスローインからリヴェリーノがイタリアゴール前にクロスを上げ、ペレがヘディングでゴールに押し込みブラジルが先制点を挙げる。(ブラジル1-0イタリア)
26分 イタリアのブルグニッチがペレのドリブルを足で引っ掛けて倒しイエローカードを貰う。
33分 ブラジルのジェルソンが右サイドからクロスを上げ、ペレが頭で合わせたが枠を外れてゴールならず。
37分 イタリアのボニンセーニャがブラジルDFの軽率なプレーを見逃さずにボールを奪い、そのまま持ち上がってブラジルゴールに押し込みイタリアが同点に追いつく。(ブラジル1-1イタリア)
43分 イタリアのドメンギーニがミドルシュートを打ったがGKフェリックスの正面でゴールならず。
45分 ブラジルのリヴェリーノがベルティーニの足に蹴りを入れてしまいイエローカードを貰う。
試合展開はブラジルのオフェンス対イタリアのディフェンスの予想だったが、15分頃まではイタリアもボールを保持して攻め込んでいった。18分にブラジルがペレのヘディングシュートで先制すると、その後はブラジルペースになっていったが、37分にブラジルDFの軽率なプレーからイタリアが同点に追いついて試合は振り出しに戻っていった。そして前半は1-1のまま終了してハーフタイムに入っていった。
試合(後半)
47分 ブラジルのカルロス・アルベルトが右サイドから低いクロスを入れ、ペレが飛び込んだが合わせることが出来ず。
51分 ブラジルが右サイドからのFKをリヴェリーノが直接狙ったがGKアルベルトージがセーブしてゴールならず。
53分 イタリアがカウンターからファケッティが左サイドを持ち上がってボニンセーニャに渡し、ボニンセーニャが右サイドのドメンギーニにパスを出してシュートを打ったが、ブラジルDFがクリアしてゴールならず。
60分 ブラジルがイタリアゴール正面のFKからリヴェリーノが右足で狙ったがクロスバーを直撃して惜しくもゴールならず。
64分 イタリアが左サイドからのクロスをリーヴァが頭で合わせたが枠を外れてゴールならず。
66分 ブラジルが中盤でのパス回しからジェルソンがシュートを打ってイタリアゴールに突き刺し、ブラジルが勝ち越しのゴールを挙げる。(ブラジル2-1イタリア)
71分 ブラジルがハーフェライン付近からジェルソンがロングフィードでイタリアペナルティエリア内にクロスを入れ、ペレが頭で落としたところをジャイルジーニョがイタリアゴールに押し込んでブラジルが追加点を挙げる。(ブラジル3-1)
74分 イタリアがベルティーニが負傷して下がりジュリアーノを投入。
78分 ブラジルのジェルソンが左サイドのリヴェリーノにスルーパスを通し、リヴェリーノがシュートを打ったが枠を外れてゴールならず。
79分 ブラジルがジャイルジーニョ→トスタン→ペレと繋いでシュートを打ったがGKアルベルトージがセーブしてゴールならず。
84分 イタリアがボニンセーニャを下げてリヴェラを投入。
86分 ブラジルがジャイルジーニョ、ペレと繋いで最後は右サイドからカルロス・アルベルトが強烈なシュートをイタリアゴールに突き刺して、試合を決定づけるダメ押しの追加点を挙げる。(ブラジル4-1イタリア)
後半に入るとテクニックに勝るブラジルがボールをキープして攻め込み、イタリアがカウンターで応酬する展開になっていき、66分にジェルソンがゴールを決めてブラジルが勝ち越し点を挙げた。その5分後にもジャイルジーニョが得点を挙げてイタリアを突き放しにかかり、86分にはカルロス・アルベルトがダメ押しとなる強烈なシュートを決めて試合を決定づけた。そして試合は4-1で終了してブラジルが2大会ぶり3回目の優勝を決めた。
優勝国ブラジル
ブラジルは南米予選の6試合を6戦全勝で通過して本大会に出場し、本大会ではグループリーグから決勝までの6試合を6戦全勝で2大会ぶり大会最多となる3回目の優勝を達成した。南米予選から本大会決勝まで12戦全勝の完全優勝となったこのチームは、歴代ワールドカップの優勝チームの中でも史上最強といわれている。
個人に目を向けるとペレ自身も3回目のワールドカップ制覇となり、有終の美を飾ってワールドカップの舞台から去ることになった。そしてこの最強チームを率いたマリオ・ザガロ監督は、史上初めて選手と監督の両方で優勝を達成することになった。
準優勝国イタリア
2年前のユーロを制して欧州王者として本大会に出場してきたイタリアは、準優勝に終わったが32年ぶりに決勝に進出してサッカー大国復活を印象づけた。しかし、このチームの2大エースのマッツォーラとリヴェラの併用を避けて、前後半のリレー式登用を選択したヴァルカレッジ監督の采配は議論の的になった。
引き続きヴァルカレッジ監督が指揮を執り、4年後のワールドカップ西ドイツ大会にも出場したが、まさかの1次リーグ敗退を喫してしまいヴァルカレッジ政権は幕を閉じることになった。
出場選手(ブラジル)
GK 1 フェリックス 1970年のワールドカップに出場。
DF 4 カルロス・アルベルト Ⓒ 1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のブラジルを代表する史上最高のディフェンダーの一人。
DF 2 ブリト 1966年、1970年のワールドカップに出場。
DF 3 ヴィウソン・ピアッザ 1970年、1974年のワールドカップに出場。
DF 16 エヴェラウド 1970年のワールドカップに出場。
MF 5 クロドアウド 1970年のワールドカップに出場。
MF 8 ジェルソン 1966年、1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代中盤のブラジルを代表する史上最高のミッドフィルダーの一人。
FW 7 ジャイルジーニョ 1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代中盤から1970年代のブラジルを代表する史上最高のウインガーの一人。
FW 11 R・リヴェリーノ 1970年、1974年、1978年のワールドカップに出場。1960年代中盤から1970年代のブラジルを代表する史上最高の選手の一人であり、南米を代表する史上最高選手の一人。後年J・リーグの清水エスパルスの監督に就任する。アルゼンチンのスーパスター・マラドーナが憧れた選手の一人。
FW 9 トスタン 1966年、1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代初頭のブラジルを代表する史上最高のオフェンシブミッドフィルダーの一人。
FW 10 ペレ 1958年、1962年、1966年、1970年のワールドカップに出場。1950年代中盤から1970年代のブラジルを代表する史上最高の選手であり、世界を代表する史上最高の選手。
監督 マリオ・ザガロ ブラジルを代表する史上最高の監督の一人。1950年代から1960年代中盤のブラジルを代表する史上最高の左ウインガーの一人。1958年と1962年のワールドカップに選手として出場して優勝し、1970年と1998年のワールドカップに監督として出場して1970年は優勝に導いている。
出場選手(イタリア)
GK 1 E・アルベルトージ 1966年、1970年のワールドカップに出場。1960年から1970年代のイタリアを代表する史上最高のゴールキーパーの一人。
DF 2 T・ブルグニッチ 1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高のディフェンダーの一人。
DF 8 R・ロザート 1966年、1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高のディフェンダーの一人。この試合後にペレとユニフォームの交換をしている。
DF 5 P・セラ 1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表するディフェンダー。
DF 3 G・ファケッティ Ⓒ 1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高の左サイドバックであり、欧州を代表する史上最高の左サイドバックの一人。
MF 10 M・ベルティーニ ▼74分 1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表するミッドフィルダー。
MF 16 G・デ・システィ 1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高のミッドフィルダーの一人。
MF 13 A・ドメンギーニ 1970年のワールドカップに出場。
MF 15 S・マッツォーラ 1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高の選手の一人であり、欧州を代表する史上最高の選手の一人。イタリア史上最高の選手の一人であるヴァレンティノ・マッツォーラは実父である。
FW 20 R・ボニンセーニャ ▼84分 1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表するストライカー。
FW 11 L・リーヴァ 1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高の選手の一人であり、欧州を代表するストライカーの一人。
MF 18 A・ジュリアーノ △74分 1970年のワールドカップに出場。
MF 14 G・リヴェラ △84分 1962年、1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高の選手の一人であり、欧州を代表する史上最高の選手の一人。1969年にバロンドール受賞。
監督 F・ヴァルカレッジ 1970年、1974年のワールドカップに監督として出場。
試合結果
1970年6月21日 エスタディオ・アステカ(メキシコシティ)
ブラジル 4-1 イタリア
得点 ペレ(ブラジル) 18分
R・ボニンセーニャ(イタリア) 37分
ジェルソン(ブラジル) 66分
ジャイルジーニョ(ブラジル) 71分
カルロス・アルベルト(ブラジル) 86分