両国の勝ち上がり
ブルガリアはグループDに入り、3チームが2勝1敗で並び得失点差と直接対決の結果、グループを2位で通過して決勝トーナメントに進出した。決勝トーナメント1回戦ではメキシコを1-1の延長PK戦の末に勝利して準々決勝に進出してきた。
ディフェンディングチャンピオンのドイツはグループCに入り、2勝1分で首位通過して決勝トーナメント1回戦ではベルギーを3-2の点の取り合いを制して準々決勝に進出してきた。
試合
試合は猛暑の12:00にキックオフとなり、両チームとも暑さというもう一つの敵との闘いでもあった。最初のチャンスはブルガリアに訪れて前半12分、レチコフがドイツのビルドアップをカットして右サイドに流れたストイチコフにパスを出し、ドイツDFをフェイントでかわして中央に折り返し、バラコフがシュートを撃ったがポストにあたってゴールにはならなかった。
しばらくはブルガリアペースだったが前は24分、右サイドからヘスラーがペナルティエリア内にクロスを上げ、クリンスマンがダイビングヘッドで狙ったがGKミハイロフの正面でゴールはならなかった。ここからはドイツペースに変わり、33分にマテウスが左サイドのヘスラーにロングフィードのパスを出し、ヘスラーが中央に折り返し、メラーが強烈なミドルシュートを撃ったがブルガリアDFにあたってゴールはならず。
さらに34分にブッフバルド、39分にヘスラーがそれぞれミドルシュートを放ち、40分にはマテウスのロングフィードからクリンスマンがノートラップボレーを撃ったがいずれもゴールを割ることは出来なかった。そして前半はこのままスコアレスで終了して折り返しを迎えることになった。
後半に入り早々の48分、左サイドのワーグナーがペナルティエリア内にクロスを上げ、クリンスマンがトラップしたところをレチコフが足を引っかけて倒してしまいドイツがPKを獲得した。このPKをマテウスが決めてドイツが先制点を挙げた。
追いかける展開になったブルガリアは55分、ドイツエリアでバラコフがストイチコフにボールを渡し、ストイチコフが左サイドをオーバーラップしてきたツヴェタノフにスルーパスを通してドイツゴール前に折り返し、これをシラコフがヘディングで狙ったが枠を外れてしまった。さらに左サイドのコーナーキックからイヴァノフ、コスタディノフが頭で合わせたが、いずれも枠を外してゴールはならなかった。
その後、後半65分以降は猛暑もあり消耗戦の様相を呈していき、両チームの選手は膝に手をやるシーンも出てきた。それは、より平均年齢の高いドイツに負担が大きく、次第に足も止まり始めていた。そういった中、後半73分にメラーの強烈なミドルシュートがポストを直撃し、跳ね返ったボールをフェラーがゴールに押し込みドイツが追加点を挙げたかに思われたが、フェラーがオフサイドの位置にいたためゴール無効の判定となった。
その直後の後半75分、ドイツペナルティエリア外右の位置のFKをストイチコフが得意の左足で直接ドイツゴールに蹴り込み、ブルガリアが同点に追いついた。さらに後半78分、右サイドからヤンコフがドイツゴール前にクロスを上げ、レチコフが頭で合わせてドイツゴールに突き刺し、わずか3分の間にブルガリアが逆転に成功した。
逆転されたドイツは、ヘスラーを下げてブレーメを投入してパワープレーに移行していき、ブルガリアペナルティエリア内にボールを放り込んでいった。しかし、このドイツのパワープレーの猛攻に耐えて逃げ切り、ブルガリアが大金星を挙げて初の準決勝進出を決めた。
その後の両国
ドイツ戦の大金星で準決勝に進出したブルガリアは、イタリアに1-2で敗れて決勝に進出することは出来なかった。3位決定戦でもスウェーデンに0-4の大敗で敗れたが、堂々の同国史上初の4位に終わった。結局、今大会のブルガリアは同国史上最強のチームと評価され、ストイチコフは今大会得点王となり同年のバロンドールも受賞することになった。
まさかの逆転負けを喫して連覇を逃したディフェンディングチャンピオン・ドイツの敗因は、やはり主力の高齢化は外せない要因の一つといえる。この準々決勝に出場したヘルマー、メラー、ワーグナー、シュトルンツの4人以外は、4年前の決勝に出場した選手達だった。そしてドイツが準決勝進出を逃したのは、1978年大会以来となる屈辱となり、2年後のEUROに向けて若返りはドイツの急務となった。
余談
ドイツはこの大会以降も輝かしい成績を収めていくわけだが、さすがというか当然というべきかドイツは逆転負けが非常に少ないチームである。ドイツほどのサッカー大国ともなれば、先制点を奪えばそのまま主導権を握って勝利に結びつけるのは当然といえば当然である。故に主力の高齢化があったとはいえ、この大会の逆転負けでの準々決勝敗退は意外な結果だった。
そして、次にドイツがワールドカップで逆転敗けを喫するのが、28年後の2022年カタール大会の日本戦となるのである。このことからも日本がドイツから挙げた逆転勝利は歴史的快挙だったといえる。
出場選手(ブルガリア)
GK 1 B・ミハイロフ Ⓒ 1986年、1994年、1998年のワールドカップに出場。
DF 16 I・キリアコフ 1994年のワールドカップに出場。
DF 3 T・イヴァノフ 1994年、1998年のワールドカップに出場。
DF 5 P・フブチェフ 1994年のワールドカップに出場。後にブルガリア代表監督に就任。
DF 4 T・ツヴェタノフ 1994年のワールドカップに出場。
MF 6 Z・ヤンコフ 1994年、1998年のワールドカップに出場。
MF 9 Y・レチコフ 1994年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のブルガリアを代表するミッドフィルダー。
MF 20 K・バラコフ 1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代後半から2000年代前半のブルガリアを代表するミッドフィルダー。後にブルガリア代表監督に就任。
FW 7 E・コスタディノフ ▼90分 1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のブルガリアを代表するアタッカー。
FW 10 N・シラコフ 1986年、1994年のワールドカップに出場。
FW 8 H・ストイチコフ ▼85分 1994年、1998年のワールドカップに出場し、1994年は得点王。1980年代後半から1990年代のブルガリアを代表する史上最高の選手。1994年にバロンドール受賞。後年ブルガリア代表監督に就任。後にJ・リーグの柏レイソルに選手として在籍し、J・リーガーで唯一のバロンドーラー。
FW 13 I・ヨルダノフ △85分 1994年、1998年のワールドカップに出場
FW 14 B・ゲンチェフ △90分 1994年のワールドカップに出場。
監督 D・ペネフ ブルガリアを代表する名将。1966年、1970年、1974年のワールドカップに選手として出場し、1994年のワールドカップに監督として出場して4位入賞に導いている。
出場選手(ドイツ)
GK 1 B・イルクナー 1990年、1994年のワールドカップに出場。
DF 5 T・ヘルマー 1994年、1998年のワールドカップに出場。
DF 6 G・ブッフバルド 1990年、1994年のワールドカップに出場。後にJ・リーグの浦和レッズに選手と監督として在籍。
DF 4 J・コーラー 1990年、1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のドイツを代表する名ディフェンダー。
DF 14 T・ベルトールト 1986年、1990年、1994年のワールドカップに出場。
DF 17 M・ワーグナー ▼59分 1994年のワールドカップに出場。
MF 7 A・メラー 1990年、1994年、1998年のワールドカップに出場。1990年代のドイツを代表するオフェンシブミッドフィルダー。
MF 10 L・マテウス Ⓒ 1982年、1986年、1990年、1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代のドイツを代表する史上最高の選手の一人。1990年にバロンドール受賞。後にブルガリア代表監督に就任。
MF 8 T・ヘスラー ▼83分 1990年、1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のドイツを代表するオフェンシブミッドフィルダー。
FW 13 R・フェラー 1986年、1990年、1994年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のドイツを代表するストライカー。後にドイツ代表監督に就任し、2002年の日韓ワールドカップに監督として出場し準優勝に導いている。
FW 18 J・クリンスマン 1990年、1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のドイツを代表するストライカー。後にドイツ代表監督に就任し、2006年の自国開催のワールドカップに監督として出場し3位入賞に導いている。
MF 2 T・シュトルンツ △59分 1994年のワールドカップに出場。
DF 3 A・ブレーメ △83分 1986年、1990年、1994年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のドイツを代表する左サイドバック。
監督 H・フォクツ 1960年代後半から1970年代のドイツを代表する名ディフェンダー。1970年、1974年、1978年のワールドカップに選手として出場し、1974年は優勝に貢献。1994年、1998年のワールドカップに監督として出場。
試合結果
ブルガリア 2-1 ドイツ
得点 L・マテウス(ドイツ) 48分
H・ストイチコフ(ブルガリア) 75分
Y・レチコフ(ブルガリア) 78分