両国の勝ち上がり状況
2年前のEURO1996を制した欧州王者ドイツは、グループFに入り2勝1分の首位通過でグループリーグを突破してきた。決勝トーナメント1回戦では、メキシコを2-1の逆転勝利で下し準々決勝に進出した。チームの主力は2年前とほぼ変わらず、ここまでは無難に勝ち上がってきたが、EUROを優勝に導いたリベロのザマーがケガにより今大会欠場していることと主力の高齢化が懸念材料であった。
一方、初出場となったクロアチアは、グループHに入り2勝1敗の2位でグループリーグを通過してきた(この時の2戦目は、同じく初出場の日本との対戦だった)。決勝トーナメント1回戦では、ルーマニアをスーケルのPKで競り勝ち、初出場で準々決勝に進出してきた。
また、この両国は2年前のEURO1996の準々決勝でも対戦しており、その時はドイツが2-1でクロアチアを下して、そのまま頂点まで昇りつめて欧州王者となった。クロアチアのリベンジなるのか、ドイツが再び返り討ちにするのか、注目の一戦となった。
試合
試合は静かな展開で始まっていき、お互いに様子見の立ち上がりとなった。次第にドイツがボールキープしてペースを掴んでいき、21分右サイドのFKをヘスラーがゴール前に蹴り込み、ハマンが頭で合わすがクロスバーの上に外れていった。さらに30分、右サイドからハインリヒがクロアチアゴール前にクロスを上げ、ビアホフがヘディングシュートを撃ったが、GKラディッチが好セーブで防いでピンチを凌いだ。
その後もドイツペースで進んでいった前半40分、ドイツエリアのハーフェライン付近のルーズボールをスーケルとヴェアンスが競りあった際に、ヴェアンスの足がスーケルにあたり転倒してしまう。このプレーに主審は迷わずレッドカードを提示し、ヴェアンスは退場処分となってしまった。リプレーで見てもそんなに悪質な感じはなく、ドイツにとってはあまりにも厳しい判定となった。
1人少なくなったドイツに対して、ようやくボールキープできるようになったクロアチアは前半アディショナルタイムの48分、右サイドからスタニッチがドリブルで持ち上がり中央やや左寄りのフリーのヤルニにパスを出し、これをヤルニが左足でミドルシュートを放つとドイツゴールに吸い込まれていった。前半残り5分で一気に形勢を逆転したクロアチアが1-0のリードでハーフタイムに入っていた。
後半に入るとビハインドを背負っているドイツが攻め込んでいき、後半52分左サイドのCKをタルナートが上げ、クリンスマンが頭で後ろにそらしてビアホフが左足ボレーを撃ったが、GKラディッチの正面でゴールはならなかった。対してクロアチアはアドバンテージを生かしてカウンターで応酬していき、56分にスーケル、67分にボバンがシュートを撃ったがゴールにはならなかった。
後半も70分を過ぎたあたりからドイツの足が止まり、なかなか前にボールを運べなくなっていった。すると80分に中盤でボールをカットしたボバンがそのまま持ち込んでブラオヴィッチにパスを出し、これをヴラオヴィッチがミドルシュートでドイツゴールに突き刺してクロアチアが追加点を挙げた。
残り10分で1人少ない上に2点差をつけられたドイツは、ここで緊張の糸が切れたか85分にもスーケルの個人技でダメ押しの3点目を奪われて万事休す。試合はこのまま3-0でクロアチアが勝利して開催国フランスが待つ準決勝に進出した。
その後の両国
初出場で準決勝まで進出したクロアチアは開催国フランスと対戦し、スーケルのゴールで先制したがテュラムの2ゴールで逆転負けを喫して決勝進出は出来なかった。しかし、3位決定戦ではオランダを2-1で破り、堂々の初出場3位で大会を終えて、スーケルは大会得点王になった。
不運な判定があったとはいえ、結局2大会連続の準々決勝敗退に終わったドイツは、フォクツ監督が一旦は留任したが、その後に辞任して新監督にはリベックが就任した。だが、何よりも問題なのは主力の高齢化で、今大会でも未だに1990年のワールドカップ優勝メンバーが8人もエントリーしていた。2000年のEUROに向けて若手の育成が急務となった。
ピックアッププレイヤー ローター・マテウス
この試合でワールドカップに5大会、通算25試合に出場したドイツの闘将マテウスがワールドカップに別れを告げた。1982年は控えだったが、1986年は準優勝、1990年はキャプテンとして優勝に貢献し、同年のバロンドールを受賞した。特に1986年と1990年の決勝戦のマラドーナ率いるアルゼンチンとの死闘はワールドカップの歴史に刻まれている。
1994年、1998年はともに準々決勝で敗退して不本意な結果になってしまい、敗因が主力の高齢化であった。しかし、見方によればマテウスを筆頭に1990年の優勝メンバーが偉大過ぎて世代交代が遅れたともいえる。そしてこの試合で通算25試合出場の記録を打ち立てた(2022年にアルゼンチンのメッシが26試合に更新した)。
出場選手(ドイツ)
GK 1 A・ケプケ 1998年のワールドカップに出場。
DF 8 L・マテウス 1982年、1986年、1990年、1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代のドイツを代表する史上最高の選手の一人。1990年にバロンドール受賞。
DF 2 C・ヴェアンス 1998年のワールドカップに出場。
DF 4 J・コーラー 1990年、1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のドイツを代表する名ストッパー。
DF 3 J・ハインリヒ 1998年のワールドカップに出場。
DF 21 M・タルナート 1998年のワールドカップに出場。
MF 16 D・ハマン ▼79分 1998年、2002年のワールドカップに出場。
MF 13 J・イェレミース 1998年、2002年のワールドカップに出場。
MF 10 T・ヘスラー ▼69分 1990年、1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のドイツを代表するオフェンシブミッドフィルダー。
FW 20 O・ビアホフ 1998年、2002年のワールドカップに出場。1990年代のドイツを代表するストライカー。
FW 18 J・クリンスマン Ⓒ 1990年、1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のドイツを代表するストライカー。後にドイツ代表監督に就任し、2006年の自国開催のワールドカップに監督として出場し3位入賞。
FW 9 U・キルステン △69分 1994年、1998年のワールドカップに出場。
FW 11 O・マーシャル △79分 1998年のワールドカップに出場。
監督 H・フォクツ 1960年代後半から1970年代のドイツを名ディフェンダー。1970年、1974年、1978年のワールドカップに選手として出場し、1974年は優勝に貢献。1994年、1998年のワールドカップに監督として出場。
出場選手(クロアチア)
GK 1 D・ラディッチ 1998年のワールドカップに出場。
DF 4 I・シュティマツ 1998年のワールドカップに出場。後にクロアチア代表監督に就任。
DF 20 D・シミッチ 1998年、2002年、2006年のワールドカップに出場。
DF 6 S・ビリッチ 1998年のワールドカップに出場。後にクロアチア代表監督に就任。
DF 13 M・スタニッチ 1998年、2002年のワールドカップに出場。1980年代後半から2000年代前半のクロアチアを代表するオフェンシブミッドフィルダー。
DF 17 R・ヤルニ 1990年、1998年、2002年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のクロアチアを代表する左サイドバック。
MF 14 Z・ソルド 1998年、2002年のワールドカップに出場。
MF 7 A・アサノヴィッチ 1998年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のクロアチアを代表するミッドフィルダー。
MF 10 Z・ボバン Ⓒ 1998年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のクロアチアを代表する史上最高の選手の一人。
FW 19 G・ヴラオヴィッチ ▼83分 1998年、2002年のワールドカップに出場。
FW 9 D・スーケル 1990年、1998年、2002年のワールドカップに出場し、1998年は得点王。1980年代後半から2000年代前半のクロアチアを代表するストライカー。
MF 11 S・マリッチ △83分 1998年のワールドカップに出場。
監督 M・ブラセヴィッチ クロアチア史上最高の監督。1998年のワールドカップに監督として出場し3位入賞。
試合結果
ドイツ 0-3 クロアチア
得点 R・ヤルニ(クロアチア) 45分+3分
G・ヴラオヴィッチ(クロアチア) 80分
D・スケール(クロアチア) 85分