予選グループE
2008年のEURO本大会出場権をかけて行われる予選は、各組上位2カ国に出場権が与えられることになっていた。グループEに入った両国は、出場権を巡ってロシアと三つ巴の激しい戦いを繰り広げていた。
イングランドホームのこの試合は予選グループEの最終戦に組み込まれており、試合開始前の時点でクロアチアは勝点26を挙げてすでに予選突破を決めていた。残る1枠をイングランドとロシアで争われており、イングランドは勝点23、ロシアは勝点21となっていた。イングランドはホームクロアチア戦を引き分け以上で予選通過となり、ロシアはアウェーのアンドラ戦を自らが勝利した上で、さらにイングランドがクロアチアに負けなければならないという状況であった。
各対戦の力関係からしてロシアがアンドラに負けることは考えにくく、イングランドはホームクロアチア戦で敗戦だけは避けなければならない試合となっていた。
試合
試合は意外な形で始まった。前半8分、クラニツァールが30m超のロングシュートを放つと、GKカーソンの手前でバウンドしてイングランドゴールに吸い込まれていった。雨が降って滑りやすいピッチではあったが、GKカーソンの完全なミスであった。
思わぬ形で失点をしたイングランドは前半10分、コールがドリブルでカットインしてクラウチにパスを出し、さらにクラウチがフリーのフィリップスにスライディングでパスを送ってシュートを撃ったがGKプレティコサに好セーブされてしまった。さらに12分、フィリップスが右サイドからオーバーラップしてきたリチャーズにパスを通し、リチャーズがゴール前に折り返してクラウチがシュートを撃ったが、クロアチアDFにクリアされてしまった。
すると前半14分、クロアチアがカウンターからエドゥアルドがドリブルで持ち上がり、オフサイドラインを抜け出したオリッチにスルーパスを出すと、オリッチがGKカーソンをかわしてイングランドゴールに押し込み、クロアチアが追加点を挙げた。
15分も立たない内に2失点を喫し、リズムに乗れないイングランドは攻撃も淡白になっていき、クラウチにボールを上げてからのポストプレーになっていった。前半はこのままクロアチアリードの2-0で終了し、ハーフタイムに入っていったがホーム・ウェンブリースタジアムは激しいブーイングに包まれていた。
敗戦が許されないイングランドは、後半の頭からバリーとフィリップスを下げてベッカムとデフォーを投入して打開を図ってきた。そして後半56分、左サイドからコールがクロアチアゴール前にクロスを上げるとデフォーがシムニッチに倒されてPKを獲得した。これをランパードが落ち着いて決めてイングランドが1点差に詰め寄った。
さらに後半65分、右サイドでボールを受けたベッカムが伝家の宝刀・右足でゴール前のクラウチにセンタリングを上げ、これをクラウチが胸トラップからのボレーでクロアチアゴールに押し込み、イングランドがついに同点に追いついた。交代策がピタリとはまり、サポーターのボルテージも最高潮に達した。
しかし、同点に追いつかれたクロアチアが反撃に回り、イングランドゴールを度々脅かしていき、イングランドディフェンスも必死に耐えていくがセカンドボールを全てクロアチアに拾われた後半77分、交代出場したペトリッチが左サイド45度の位置から豪快なミドルシュートをイングランドゴールに突き刺し、再びクロアチアが勝ち越しに成功した。
残り時間イングランドは猛攻を仕掛けるが、結局試合は3-2のまま終了した。再びウェンブリースタジアムは激しいブーイングに包まれ、同時刻開催のアンドラーロシア戦はロシアが勝利して勝点でイングランドを上回り、イングランドの予選敗退が決まった。
その後の両国
引き分けでも予選通過だった試合によもやの敗戦を喫し、2008年のEURO本大会出場を逃したイングランドでは、もちろん激しい批判が行われ、マクラーレン監督は解任された。後任にはイタリアの名将カペッロが就任し、2010年のワールドカップ本大会出場に向けて始動していくことになった。
余談だがイングランド代表にとっては、21世紀に入ってからのビッグトーナメントの本大会出場を逃したのは、現時点でこのEURO2008だけである。またこの予選敗退を受けて、当時のイングランドメディアは、「これでイングランド代表は、この夏長いサマーバカンスを過ごすことが出来る」と、皮肉を込めて伝えていた。
一方、この最終戦はすでに消化試合だったクロアチアは手を抜くことなく、きっちり勝利で締めくくり翌年のEURO本大会出場を首位突破で決めた。本大会でもグループリーグで優勝候補の筆頭ドイツを破り、準々決勝に進出してトルコと対戦したが、延長PK戦の末に敗れてベスト8に終わった。
もう1枠で出場権を獲得したロシアも本大会で旋風を巻き起こし、準々決勝で優勝候補のオランダを延長戦の末に下し、ベスト4まで進出している(準決勝ではスペインに完敗)。結果論だが、この予選グループEで敗退したイングランドは、予選最大の波乱の扱いだったが、ロシアとクロアチアの本大会の結果を見る限り、グループEは実力伯仲の3カ国が同居した予選最大の激戦区だったといえる。
出場選手(イングランド)
GK 1 S・カーソン
DF 2 M・リチャーズ
DF 6 S・キャンベル 2000年、2004年のEUROに出場。
DF 5 J・レスコット 2012年のEUROに出場。
DF 3 W・ブリッジ 2004年のEUROに出場。
MF 10 S・フィリップス ▼46分
MF 4 S・ジェラード Ⓒ 2000年、2004年、2012年のEUROに出場。2000年代から2010年代のイングランドを代表するミッドフィルダー。
MF 7 G・バリー ▼46分 2000年のEUROに出場。
MF 8 F・ランパード 2004年のEUROに出場。1990年代後半から2010年代前半のイングランドを代表するミッドフィルダー。
MF 11 J・コール ▼80分 2004年のEUROに出場。
FW 9 P・クラウチ
FW 16 J・デフォー △46分 2012年のEUROに出場。
MF 17 D・ベッカム △46分 もはや説明不要のスーパースター。
FW 18 D・ベント △80分
監督 S・マクラーレン 2008年のEURO予選敗退により解任される。
出場選手(クロアチア)
GK 1 S・プレティコサ 2004年、2008年、2012年のEUROに出場。
DF 5 V・チョルルカ 2008年、2012年、2016年のEUROに出場。
DF 2 D・シミッチ 1996年、2004年、2008年のEUROに出場。
DF 4 R・コバッチ 2004年、2008年のEUROに出場。
DF 3 J・シムニッチ 2004年、2008年、2012年のEUROに出場。
MF 11 D・スルナ 2004年、2008年、2012年、2016年のEUROに出場。
MF 14 L・モドリッチ 2008年、2012年、2016年、2020年のEUROに出場。2000年代から現在までのクロアチアを代表する史上最高の選手。2018年にバロンドール受賞。
MF 10 N・コバッチ Ⓒ 2004年、2008年のEUROに出場。1990年代から2000年代のクロアチアを代表するミッドフィルダー。後にクロアチア代表監督に就任する。
MF 19 N・クラニツァール ▼75分 2008年、2012年のEUROに出場。実父は元クロアチア代表監督のズラトコ・クラニツァールである。
FW 18 I・オリッチ ▼84分 2004年、2008年のEUROに出場。
FW 22 エドゥアルド ▼69分 2012年のEUROに出場。
FW 21 M・ペトリッチ △69分 2008年のEUROに出場。
DF 24 D・プラニッチ △75分 2008年、2012年のEUROに出場。
MF 7 I・ラキティッチ △84分 2008年、2012年、2016年のEUROに出場。2000年代後半から2020年代前半のクロアチアを代表するミッドフィルダー。
監督 S・ビリッチ 1996年のEUROに選手として出場し、2008年と2012年のEUROに監督として出場。
試合結果
イングランド 2-3 クロアチア
得点 N・クラニツァール(クロアチア) 8分
I・オリッチ(クロアチア) 14分
F・ランパード(イングランド) 56分
P・クラウチ(イングランド) 65分
M・ペトリッチ(クロアチア) 77分