プレーオフ概要
1996年のEUROイングランド大会本選出場をかけた予選は8グループに分けて行われ、各組1位と各組2位のうち上位6カ国が本選出場権を獲得し、下位2カ国がプレーオフを行い、勝った方が出場権を獲得できる。これに開催国のイングランドを加えた16カ国で本大会出場国が決定する。
そして予選全日程が終わり、各組2位のうち下位2カ国になったのがアイルランドとオランダである。この両国が最後の16番目の席を目指して、イングランドのリヴァプールで激突した。
両国の予選結果
アイルランドはグループ6で2位になりプレーオフに回ることになった。序盤は4連勝スタートで好調だったのだが、中盤でオーストリアにホームとアウェーで連敗したのが痛かった。ここで勝点6を落としており、各組2位の上位6カ国に入ることが出来なかった。
一方、オランダはグループ5で2位になりプレーオフに回ることになった。オランダは予選中盤まで調子が上がらず、チェコとベラルーシにアウェーとはいえ連敗を喫してしまい、ここで勝点6を失って各組2位の上位6カ国に入れなかった。
戦前は、予選中盤から終盤に調子を落としたアイルランドよりも、予選最終戦でノルウェーを下して逆転で2位に繰り上がったオランダが有利の予想だった。また、この時のオランダ代表は当時ヨーロッパを制覇していたアヤックスのメンバーが主力で、この試合はもとより、勝ち上れば本大会でも十分優勝を狙えるチームであった。
試合
攻撃のスタイルが好対照な両チームの立ち上がりは、パスを繋いでゲームを組み立てるオランダが主導権を握って展開していった。前半7分、ベルカンプが中央から左のダヴィッツにスルーパスを通しシュートを放ったが、これはGKケリーが防いだ。続く8分には、R・デ・ブールからのパスを受けたベルカンプがシュートを撃つが、これはポストに当たってゴールにならなかった。
その後もオランダペースで進んでいった前半30分、左サイドからセードルフがダヴィッツにスルーパスを通し、ダビッツが横パスを出したところをクライファートがそのまま振り抜き、これがゴールに突き刺さりオランダが先制点を挙げた。このゴールを皮切りにベルカンプ、オーフェルマルス、ダビッツが次々とシュートを浴びせたが追加点はならなかった。
一方、アイルランドは後方からのロングボールのこぼれ球を拾うパターンが主だったが、効果的な攻撃はほとんどなく、38分にCKからのこぼれ球をマグラースがシュートを撃ったことが唯一のチャンスだった。前半は1-0のオランダリードでオランダペースのまま終了した。
後半に入り得点が必要なアイルランドが積極的に攻め込んでいくが、スタイルは変わらずロングボール主体の攻撃を繰り返していった。後半60分までは互角の攻防で進んでいったが、64分にR・デ・ブールが左サイドのヘルダーにパスを通し、ヘルダーが折り返したところをクライファートがジャンピッグヘッドでゴールを襲うが、クロスバーに直撃して惜しくもゴールにならなかった。
そこからはまたオランダがボールキープして試合を支配していき、時間経過とともにアイルランドに焦りが出てきた終了間際の後半89分、R・デ・ブールがぽっかり空いた中央にいたクライファートにパスを出し、クライファートが落ち着いてゴールに蹴り込み、勝負を決める2点目を挙げた。そしてこのまま2-0で終了し、プレーオフを制したオランダがEURO本大会の出場権を獲得した。
その後の両国
本大会に出場したオランダは、グループAに入って2位通過し、準々決勝でフランスにスコアレスのPK戦で敗れてベスト8に終わった。優勝候補の一角として臨んだオランダだったが、プレーオフを制した試合から本大会までの半年の間にチーム力は下降していた。オーフェルマルスが大怪我で離脱したり、大会中にはダヴィッツが造反してチームを離脱したりで、本来の実力を発揮できないまま不本意な形で大会を去ることになった。
アイルランドはこのプレーオフを最後に10年間代表監督を務めたジャッキー・チャールトンが辞任した。チャールトン就任以前まで、一度もビッグトーナメントの本大会出場がなかったアイルランドをワールドカップ2回、EURO1回の本大会に導き、アイルランドを強豪国に押し上げた手腕は見事なものだった。そして後任には教え子のM・マッカーシーが就任し、1998年のワールドカップフランス大会欧州予選に挑むことになる。
出場選手(アイルランド)
GK 1 A・ケリー
DF 2 G・ケリー
DF 5 P・マグラース 1988年のEUROに出場。
DF 4 P・バブ
DF 3 D・アーウィン
MF 6 J・ケンナ
MF 7 A・タウンゼント Ⓒ ▼51分
MF 10 J・シェリダン
MF 11 T・フェラン
FW 8 J・オルドリッジ ▼72分 1988年のEUROに出場。1980年代から1990年代のアイルランドを代表するフォワード。
FW 9 T・カスカリーノ 1988年のEUROに出場。
MF 14 J・マカティア △51分
DF 15 A・カーナハン △72分
監督 J・チャールトン アイルランドで最も愛されたイングランド人。1986年に監督就任以来、アイルランドを一躍強豪国にのし上げた。実弟はイングランド史上最高の選手ボビー・チャールトンである。
出場選手(オランダ)
GK 1 E・ファン・デル・サール 1996年、2000年、2004年、2008年のEUROに出場。1990年代から2010年代前半のオランダを代表する史上最高のゴールキーパー。
DF 2 M・ライツィハー 1996年、2000年、2004年のEUROに出場。1990年代から2000年代前半のオランダを代表するディフェンダー。
DF 3 D・ブリント Ⓒ 1996年のEUROに出場。1980年代から1990年代のオランダを代表する名リベロ。後にオランダ代表監督に就任。現オランダ代表デイリー・ブリントは息子である。
DF 5 W・ボハルデ 1996年のEUROに出場。
MF 4 C・セードルフ 1996年、2000年、2004年のEUROに出場。1990年代から2010年代前半のオランダを代表するミッドフィルダー。
MF 6 R・デ・ブール 1996年、2000年のEUROに出場。
MF 8 E・ダヴィッツ 1996年、2000年、2004年のEUROに出場。1990年代から2000年代のオランダを代表するミッドフィルダー。
MF 10 D・ベルカンプ ▼58分 1992年、1996年、2000年のEUROに出場。1990年代から2000年代前半のオランダを代表するスタープレイヤー。
FW 7 M・オーフェルマルス 2000年、2004年のEUROに出場。1990年代から2000年代前半のオランダを代表する名ウインガー。
FW 9 P・クライファート 1996年、2000年、2004年のEUROに出場し、2000年は得点王。1990年代から2000年代のオランダを代表するストライカー。
FW 11 G・ヘルダー ▼79分
DF 13 J・デ・コック △58分 1996年のEUROに出場。
MF 12 A・ヴィンター △79分 1992年、1996年、2000年のEUROに出場。
監督 G・ヒディンク オランダを代表する名将の一人。1996年にオランダ代表監督として、2008年にロシア代表監督としてEUROに出場。
試合結果
アイルランド 0-2 オランダ
得点 P・クライファート(オランダ) 30分
P・クライファート(オランダ) 89分