両国のグループリーグ戦
ドイツはグループDに入り、2戦目のセルビア戦を落としたが2勝1敗、勝点6の首位でグループリーグを突破してきた。チーム構成は、2年前のEURO2008で準優勝したメンバーに2009年のUー21欧州選手権優勝メンバーのノイアー、ボアテング、ケディラ、エジル等の若手を抜擢してバランスの良いチームに仕上げてきた。
イングランドはグループCに入り、比較的組み合わせに恵まれたかと思われたが、同組のアメリカと1勝2分の勝点5で並び、総得点で下回り2位通過となってしまった。チームは得点力不足に苦しみ、エース・ルーニーも無得点のままグループリーグ戦を終えることになった。
イングランドが予想外の2位通過となった為、決勝トーナメント1回戦でドイツ対イングランドのビッグマッチが実現した。
試合
試合はお互いに様子を見合いながらの立ち上がりとなり、ドイツはショートパスを繋いで組み立てていき、イングランドは裏を狙ったロングボールが目立っていた。前半20分、ドイツのゴールキックをノイアーが一発でイングランドペナルティエリア付近まで放り込み、クローゼがアップソンと競り合いながらもゴールに蹴り込みドイツが先制点を挙げた。皮肉にもイングランドがしていたロングボール一本で見事に点に繋げた格好となった。
さらに前半32分には、自陣エリアからメルテザッカー→ラーム→ケディラ→ミュラー→エジル→クローゼ、そして再度受け取ったミュラーがポドルスキーにラストパスを出し、これをポドルスキーがゴールに蹴り込みドイツが追加点を挙げた。このゴールはショートパスを繋いで完璧に崩した見事なゴールだった。
2点差にされたイングランドは5分後の前半37分、右サイドのショートコーナーからジェラードがドイツゴール前にクロスボールを上げると、アップソンが頭で合わせてゴールに押し込み1点を返した。そしてその直後の前半38分、この試合最大のポイントとなるシーンが訪れる。
1点差に詰め寄ったイングランドはさらに攻め込み、ランパードが放ったミドルシュートはGKノイアーを超えてクロスバーを直撃して落下し、ゴールラインを割ってノイアーに戻ってきた。しかし主審はこのゴールを認めず、イングランドにとっては幻の同点ゴールとなってしまった。結局前半はこのまま2-1のドイツリードでハーフタイムに入っていった。
後半は追いかけるイングランドが攻め込んでいき、51分のランパードのFKは再びクロスバーを直撃するがゴールはならなかった。そして後半66分、FKを獲得したイングランドは再びランパードが直接狙うがドイツの壁に跳ね返されてしまう。この時壁に入っていたシュバインシュタイガー、ミュラー、エジルの3人で高速カウンターを仕掛け、シュバインシュタイガーが中央にカットインしてフリーのミュラーにパスを出し、これをミュラーがイングランドゴールに蹴り込みドイツが再びリードを広げた。
さらに3分後の後半70分、ドイツがカウンターから左サイドを突破したエジルがゴール前のミュラーに折り返し、ミュラーが落ち着いてゴールに押し込み試合を決定づける4点目を挙げた。この4点目はイングランド陣営の心を折るには十分なゴールで、その後のイングランドの反撃を封じたドイツが4-1で勝利して準々決勝に進出した。
この試合のターニングポイント
言うまでもなく前半38分のランパードの幻の同点ゴールである。この試合中にも再三リプレー映像が流れ、明らかにゴールの中に入っていた。試合の展開でこのゴールが認められていれば、2-2の同点となり後半は全然違った展開になっていただろう。ドイツの後半の2得点が、同点に追いつくべく前がかりになっていたイングランド攻撃からのカウンターだったことからも如実に表している。
ただ結果に関しては、イングランドにとっては不運の敗戦だったがドイツの勝利は妥当だった。何より今大会を通して魅力的なサッカーを披露していたのはドイツであり、実力的にもドイツが上回っていた。
そしてこの幻の同点ゴール、つまり誤審を防ぐために導入されたのがゴールラインテクノロジーである。21世紀に入ってサッカー自体も進化し、特にスピード面では現状の審判団では限界にきていたのも事実であり、ハイテクが導入されていったのも時代の流れである。
その後の両国
準々決勝に進出したドイツは前回大会同様アルゼンチンと対戦した。アルゼンチンのエースはメッシで率いるのはスーパースター・マラドーナである。好ゲームが期待されたが、4-0とドイツの一方的な展開になり、アルゼンチンを粉砕して準決勝に進出した。
準決勝の相手は2年前のEURO2008の決勝で敗れた欧州王者スペイン。しかし、リベンジも兼ねた準決勝で再びスペインに敗れて決勝進出とはならなかった。結局3位決定戦でウルグアイを下し、2大会連続の3位で大会を終えた。
一方、不運な敗退を喫したイングランドは引き続きカペッロが指揮を執り、2年後のEURO2012を目指すことになった。
余談
ランパードの幻の同点ゴールは、12年後の2022年ワールドカップカタール大会の日本対スペイン戦で再び話題に上った。日本の決勝点のアシストとなった「三苫の1ミリ」は、ドイツにとっては2大会連続のグループリーグ敗退となる屈辱の判定となった。イングランドではこれを12年後のランパードのゴールと呼んだらしい。
出場選手(ドイツ)
GK 1 M・ノイアー 2010年、2014年、2018年、2022年のワールドカップに出場。2000年代後半から現在に至るまでドイツを代表する史上最高のゴールキーパーの一人。
DF 16 F・ラーム Ⓒ 2006年、2010年、2014年のワールドカップに出場。2000年代から2010年代のドイツを代表する左サイドバック。
DF 3 A・フリードリヒ 2006年、2010年のワールドカップに出場。
DF 17 P・メルテザッカー 2006年、2010年、2014年のワールドカップに出場。2000年代から2010年代のドイツを代表するディフェンダー。
DF 20 J・ボアテング 2010年、2014年、2018年のワールドカップに出場。2000年代後半から2020年代前半のドイツを代表するディフェンダー。
MF 6 S・ケディラ 2010年、2014年、2018年のワールドカップに出場。2000年代後半から2020年代前半のドイツを代表するミッドフィルダー。
MF 7 B・シュバインシュタイガー 2006年、2010年、2014年のワールドカップに出場。2000年代から2010年代のドイツを代表するミッドフィルダー。
MF 13 T・ミュラー ▼72分 2010年、2014年、2018年、2022年のワールドカップに出場。2000年代後半から現在に至るまでドイツを代表するアタッカー。
MF 8 M・エジル ▼83分 2010年、2014年、2018年のワールドカップに出場。2000年代後半から2020年代前半のドイツを代表するオフェンシブミッドフィルダー。
MF 10 L・ポドルスキー 2006年、2010年、2014年のワールドカップに出場。2000年代から2010年代のドイツを代表するアタッカー。後にJ・リーグのヴィッセル神戸に選手として在籍。
FW 11 M・クローゼ ▼72分 2002年、2006年、2010年、2014年のワールドカップに出場し、2006年は得点王。ワールドカップ通算得点16点の記録保持者。2000年代から2010年代のドイツを代表するストライカー。
MF 15 P・トロホウスキー △72分 2010年のワールドカップに出場。
FW 23 M・ゴメス △72分 2010年、2018年のワールドカップに出場。
FW 9 S・キースリング △83分 2010年のワールドカップに出場。
監督 J・レーヴ 2006年から15年間ドイツ代表監督を務めたドイツを代表する史上最高の監督の一人。2010年、2014年、2018年のワールドカップに監督として出場し、2014年は優勝に導いている。
出場選手(イングランド)
GK 1 D・ジェームス 2010年のワールドカップに出場。
DF 2 G・ジョンソン ▼87分 2010年、2014年のワールドカップに出場。
DF 15 M・アップソン 2010年のワールドカップに出場。
DF 6 J・テリー 2006年、2010年のワールドカップに出場。2000年代から2010年代のイングランドを代表するディフェンダー。
DF 3 A・コール 2002年、2006年、2010年のワールドカップに出場。2000年代から2010年代のイングランドを代表する左サイドバック。
MF 16 J・ミルナー ▼64分 2010年、2014年のワールドカップに出場。2000年代よりイングランドを代表するユーティリティープレーヤー。
MF 8 F・ランパード 2006年、2010年、2014年のワールドカップに出場。1990年代後半から2010年代前半のイングランドを代表するミッドフィルダー。
MF 14 G・バリー 2010年のワールドカップに出場。
MF 4 S・ジェラード Ⓒ 2006年、2010年、2014年のワールドカップに出場。2000年代から2010年代のイングランドを代表するミッドフィルダー。
FW 19 J・デフォー ▼71分 2010年のワールドカップに出場。
FW 10 W・ルーニー 2006年、2010年、2014年のワールドカップに出場。2000年代から2010年代のイングランドを代表する史上最高の選手の一人。
MF 11 J・コール △64分 2002年、2006年、2010年のワールドカップに出場。
FW 21 E・ヘスキー △71分 2002年、2010年のワールドカップに出場。
MF 17 S・フィリップス △87分 2010年のワールドカップに出場。
監督 F・カペッロ イタリアを代表する名将の一人。1974年のワールドカップに選手として出場し、2010年のワールドカップにイングランド代表監督として出場。
試合結果
ドイツ 4-1 イングランド
得点 M・クローゼ(ドイツ) 20分
L・ポドルスキー(ドイツ) 32分
M・アップソン(イングランド) 37分
T・ミュラー(ドイツ) 67分
T・ミュラー(ドイツ) 70分