大会前の両国とライバル国
ブラジルとドイツ。いわずと知れたワールドカップの歴史に燦然と輝く足跡を残してきた両雄。この試合前までに、ブラジルは優勝4回準優勝2回、ドイツは優勝3回準優勝3回、決勝にはお互い通算6回ずつ進出している。つまり、この試合で通算7回目の決勝を迎えることになるのだが、意外にも両国は今までワールドカップでは一度も対戦がなく、今回の決勝が初顔合わせとなった。
さて、大会前の両国の評価だが、実は意外にも低かった。大会前の優勝候補の筆頭は、ディフェンディングチャンピオンでありこの時期世界最強チームのフランスと世界最高の選手層とタレント力を併せ持つアルゼンチンであった。対抗には、当時世界最高峰の国内リーグの選手で代表を形成していたイタリアと史上初の外国人監督として就任し、欧州予選でドイツを粉砕したエリクソン率いるイングランドであった。
しかし、いざ大会が始まるとフランスとアルゼンチンは、まさかのグループリーグ敗退を喫してしまい、イタリアは決勝トーナメント1回戦で誤審疑惑に巻き込まれて不運な敗退となった。イングランドこそベスト8まで勝ち上がったが、準々決勝でブラジルに敗れしまう。結局、この4カ国は一つもベスト4に残ることはなく敗退してしまった。
こうして、今大会の多くの波乱と混乱の間隙を縫って決勝に進出してきたのがブラジルとドイツだった。
両国の勝ち上がり状況
ブラジルはグループCで組み合わせに恵まれたこともあり、3戦全勝で首位通過し、決勝トーナメント1回戦でベルギー、準々決勝でイングランド、準決勝でトルコと、ヨーロッパ勢を撃破して決勝に進出した。
ドイツはグループEに入り、初戦のサウジアラビア戦を記録的な8-0と粉砕して勢いにのり、グループリーグを2勝1分で首位通過した。決勝トーナメント1回戦でパラグアイ、準々決勝でアメリカ、準決勝で開催国の韓国を、すべて1-0で競り勝って決勝に進出してきた。
試合
「3R対カーン」。試合展開を表すのに一番的確な表現である。すなわち、ロナウド、リヴァウド、ロナウジーニョを中心とした今大会16得点を挙げているブラジルの攻撃陣と、GKカーンを中心に今大会1失点のドイツディフェンスの対決である。ドイツにとっての唯一の誤算が、準決勝の韓国戦でイエローを貰い、累積でこの試合出場停止になった攻撃の中心バラックの不在である。
試合はキックオフからしばらくは一進一退の状況が続いていくが、予想通りの展開となり、徐々にブラジルがチャンスを作り始めていった。18分と29分にロナウジーニョとロナウドで2度ほどチャンスを作ったが得点には至らず、時間が経過していった。
そして前半終了近くの40分過ぎからブラジルがチャンスを立て続けに作っていく。41分にカフーがクレベルソンにスルーパスを通してミドルシュートを撃つが、GKカーンが好セーブで防ぎ、44分にもクレベルソンのミドルシュートはクロスバーを直撃して得点ならず。さらに前半アディショナルタイムには、ロベルト・カルロスが放ったミドルシュートのこぼれ球をロナウドがシュートを狙うが、再びGKカーンが防いでピンチを凌いだ。そして前半終了のホイッスルが鳴った。
後半開始は、前半ほとんどチャンスがなかったドイツがセットプレーからチャンスを掴み、49分のFKをヌビルが直接狙うがポスト直撃でゴールはならなかった。その後もフリングス、ハマンがミドルシュートを狙うもゴールを割ることができなかった。
迎えた後半67分、ドイツ陣内でハマンからボールを奪ったロナウドが、リヴァウドに渡しそのままシュートを放つ。このシュートをGKカーンがこぼしたところを詰めていたロナウドが押し込み、ブラジルが先制点を挙げた。さらに79分、右サイドからクレベルソンが持ち込んで中央のリヴァウドへ折り返し、これをリヴァウドがスルーしてロナウドの元に、これをロナウドが落ち着いてシュートを決めてブラジルが追加点を挙げる。
その後はドイツの反撃を封じたブラジルがこのまま2-0で勝利し、2大会ぶり通算5度目の優勝を果たした。
両国の大会総括
ドイツは欧州予選でイングランドに5失点大敗して、プレーオフの末の出場だったので前評判は低かったが、本大会に入るとGKカーンを中心とした強力な守備力で、決勝まで勝ち上がり準優勝になった。確かに多くの強豪が早期敗退して組み合わせに恵まれた感は否めないが、ワールドカップ上位常連国としての面目は保った。
一方、ブラジルもロナウドの長期離脱もあり、南米予選で大苦戦して、監督も2度代わるなど前評判は低かった。しかしケガから復帰したロナウド、リヴァウド、ロナウジーニョ、出場機会こそ少なかったがカカなど、後のバロンドーラー4人を擁し、カフー、ロベルト・カルロスの両サイドバックにセンターバックのルシオなど、元々選手の質は世界トップクラスを擁していた。確かにブラジルもライバル国達の早期敗退で運に恵まれた感はあったが、7戦全勝して文句なしの優勝だった。
ロナウドとクローゼ
この試合には、後にワールドカップ通算得点記録を更新する2人のストライカーが同じピッチに立っていた。4年後の2006年ドイツ大会でブラジルのロナウドが通算15得点を挙げて、ドイツのゲルト・ミュラーのそれまでの通算14得点を32年振りに更新した。
さらに、その8年後の2014年ブラジル大会でドイツのクローゼが通算16得点を挙げてロナウドの記録を更新した。しかも、その試合は引退していたロナウドの眼前で、開催国ブラジルを7-1で粉砕した試合だった。
余談
この大会ほど多くの強豪たちが早期敗退した大会はなかった。フランスとアルゼンチンはキープレヤーの怪我やコンディション不良などで、厳しいグループではあったがまさかのグループリーグ敗退となった。ポルトガル、イタリア、スペインは不利な判定に泣かされて敗退していった。詳細は割愛するが、特定のチームへのあまりにも有利な判定は、少し大会自体を興ざめにしてしまった。
また後年、この2002年日韓大会の話題になる時、試合そのものよりも判定のことばかりが話題になっているのは残念なことである。
出場選手(ドイツ)
GK 1 O・カーン Ⓒ 2002年、2006年のワルードカップに出場。1990年代から2000年代のドイツを代表する史上最高のゴールキーパーの一人。
DF 2 T・リンケ 2002年のワルードカップに出場。
DF 5 C・ラメロウ 2002年のワルードカップに出場。
DF 21 C・メッツェルダー 2002年、2006年のワルードカップに出場。
MF 22 T・フリングス 2002年、2006年のワルードカップに出場。
MF 8 D・ハマン 1998年、2002年のワルードカップに出場。
MF 16 J・イェレミース ▼77分 1998年、2002年のワルードカップに出場。
MF 17 M・ボーデ ▼84分 2002年のワルードカップに出場。この試合を最後に現役引退。
MF 19 B・シュナイダー 2002年、2006年のワルードカップに出場。
FW 11 M・クローゼ ▼74分 2002年、2006年、2010年、2014年のワルードカップに出場し、2006年は得点王。ワールドカップ通算得点16点の記録保持者。2000年代から2010年代前半のドイツを代表するストライカー。
FW 7 O・ヌビル 2002年、2006年のワルードカップに出場。
FW 20 O・ビアホフ △74分 1998年、2002年のワルードカップに出場。1990年代のドイツを代表するストライカー。
FW 14 G・アサモア △77分 2002年、2006年のワルードカップに出場。
MF 6 C・ツィーゲ △84分 1998年、2002年のワルードカップに出場。
監督 R・フェラー 1980年代から1990年代前半のドイツを代表するストライカー。1986年、1990年、1994年のワルードカップに選手として出場し、1990年は優勝に貢献。2002年のワルードカップは監督として出場し準優勝に導いている。
出場選手(ブラジル)
GK 1 マルコス 2002年のワルードカップに出場。
DF 3 ルシオ 2002年、2006年、2010年のワルードカップに出場。2000年代から2010年代のブラジルを代表する名ディフェンダー。
DF 5 エジミウソン 2002年のワルードカップに出場。
DF 4 ロッキ・ジュニオール 2002年のワルードカップに出場。
DF 2 カフー Ⓒ 1994年、1998年、2002年、2006年のワルードカップに出場。1990年代から2000年代のブラジルを代表する史上最高の右サイドバック。ワールドカップの決勝に3度出場した唯一の選手。
DF 6 ロベルト・カルロス 1998年、2002年、2006年のワルードカップに出場。1990年代後半から2000年代のブラジルを代表する史上最高の左サイドバック。
MF 8 ジウベルト・シウバ 2002年、2006年、2010年のワルードカップに出場。
MF 15 クレベルソン 2002年、2010年のワルードカップに出場。
MF 11 ロナウジーニョ ▼85分 2002年、2006年のワルードカップに出場。2000年代のブラジルを代表する史上最高の選手の一人。2005年にバロンドール受賞。
FW 10 リヴァウド 1998年、2002年のワルードカップに出場。1990年代から2000年代のブラジルを代表するアタッカー。1999年にバロンドール受賞。
FW 9 ロナウド ▼90分 1994年、1998年、2002年、2006年のワルードカップに出場。1990年代から2000年代のブラジルを代表する史上最高のストライカーの一人。1997年、2002年にバロンドール受賞。
MF 19 ジュニーニョ・パウリスタ △85分 2002年のワルードカップに出場。
MF 17 デニウソン △90分 1998年、2002年のワルードカップに出場。
監督 ルイス・フェリペ・スコラーリ ブラジルを代表する名将の一人。2002年、2014年のワルードカップに監督として出場し、2002年は優勝に導いている。J・リーグのジュピロ磐田に監督として在籍。
試合結果
ドイツ 0-2 ブラジル
得点 ロナウド(ブラジル) 67分
ロナウド(ブラジル) 79分