グループリーグF
1990年ワールドカップイタリア大会のグループFは、両国とアイルランドとエジプトで構成されており、イングランドは初戦で隣国のアイルランドと1-1で引き分けに終わっていた。2年前のEUROを制し優勝候補の一角として大会に臨んだ欧州王者オランダは格下のエジプトと初戦を行い、こちらも1-1のまさかの引き分けに終わっていた。
イングランド、アイルランド、オランダの3カ国は、2年前のEURO本大会のグループリーグでも同組になっており、その時はオランダがソ連とともにグループリーグを突破し、イングランドとアイルランドはそれぞれオランダに敗れてグループリーグ敗退に終わっていた。
イングランド、オランダともに初戦を引き分けて勝点1で迎えた第2戦は、グループリーグ首位通過をかけた重要な一戦となり、2年前はファン・バステンのハットトリックで敗れたイングランドにとってはリベンジも兼ねた対戦となった。
試合
前半はハイレベルなディフェンス合戦となり、お互い決定的チャンスはほとんど作れなかった。イングランドは9分にガスコインが、左サイドからドリブルでペナルティエリア内に侵入してオランダゴール前に折り返し、ロブソンがヘディングで合わすが枠を大きく外してしまう。後はリネカーが2回ほど右サイドに流れてオランダゴール前に折り返したぐらいだった。
オランダはファント・シップがミドルシュートを撃ったぐらいで、決定的チャンスは皆無だった。ただ、お互い激しいチャージはあるものの悪質なファールはなく、クリーンで引き締まった試合内容であった。そして前半はスコアレスのまま終了し、ハーフタイムに入っていった。
後半の立ち上がりは、オランダ攻め込んでいきCKなどでチャンスを掴んでいった。しかし、後半50分にワドルが右前のバーンズにスルーパスを出し、バーンズが折り返したボールをリネカーがシュートを撃ち、GKファン・ブロイケレンが防いで跳ね返ったボールをオランダゴールに押し込んだ。イングランドの先制かと思われたが、跳ね返った時のボールがリネカーのハンドをとられてゴール無効の判定となった。
さらに56分にリネカーがバーンズとのワンツーからのシュート、59分にリネカーの右サイドからのクロスに合わせたブルのヘディングシュートは、いずれも外れてゴールにならなかった。イングランドが徐々にチャンスを作っていた一方、オランダはクーマン、ファン・バステン、ライカールトのミドルシュートかコーナーキックぐらいしかチャンスを作れなくなっていった。
そしてスコアレスのまま迎えた後半アディショナルタイム2分、オランダエリア右サイド奥でガスコインが持ち込んでFKを獲得して、おそらく最後になるであろうチャンスを得た。この角度のない位置からのFKをピアースが直接オランダゴールに蹴り込み、土壇場でイングランドの劇的勝利かと思われたが、主審はFKの際に手を上げており、間接フリーキックだったためゴール無効の判定となってしまった。
後半はイングランドペースで進んでいったが、結局スコアレスのまま終了し、イエローカード・レッドカードが一枚も出ないクリーンな試合であった。そして両国とも勝点1を加えるにとどまり、グループリーグ通過は第3戦までもつれ込むことになった。
その後の両国
オランダはグループリーグ最終戦のアイルランド戦も引き分けてしまい、アイルランドと勝点、総得点、得失点差が全て同じになり、抽選の結果グループ3位通過となったため、決勝トーナメント1回戦で優勝候補の一角西ドイツとの対戦になってしまった。
西ドイツとの対戦は、ライカールトとフェラーの両者が退場になるなどエキサイティングな試合となり名勝負となったが、オランダは1-2で敗れて大会に別れを告げた。今大会のオランダは、2年前のEURO優勝メンバーをほぼ揃えていたが、大会前に監督問題でゴタついたりして、本来の実力を発揮できないまま不本意な出来のまま大会を去っていった。
一方、イングランドはグループ最終戦のエジプト戦を1-0で振り切り、首位でグループリーグを突破した。決勝トーナメント1回戦でベルギー、準々決勝で今大会旋風を巻き起こしたカメルーンを破り準決勝に進出した。準決勝ではオランダを下して勝ち上がった西ドイツと対戦し、1-1のまま延長PK戦の末に敗れて惜しくも決勝進出はならなかった。
3位決定戦でも開催国のイタリアに敗れたが、今大会で国際大会デビューを果たしたガスコイン、プラットなどが躍動して堂々の4位で大会を終えた。
出場選手(イングランド)
GK 1 P・シルトン 1982年、1986年、1990年のワールドカップに出場。1970年代から1990年代前半のイングランドを代表するゴールキーパー。
DF 14 M・ライト 1990年のワールドカップに出場。
DF 5 D・ウォーカー 1990年のワールドカップに出場。
DF 6 T・ブッチャー 1982年、1986年、1990年のワールドカップに出場。
DF 12 P・パーカー 1990年のワールドカップに出場。
DF 3 S・ピアース 1990年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代のイングランドを代表する左サイドバック。
MF 8 C・ワドル ▼58分 1986年、1990年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のイングランドを代表するオフェンシブミッドフィルダー。
MF 7 B・ロブソン Ⓒ ▼64分 1982年、1986年、1990年のワールドカップに出場。1970年代後半から1990年代前半のイングランドを代表するミッドフィルダー。
MF 19 P・ガスコイン 1990年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のイングランドを代表するファンタジスタ。
FW 11 J・バーンズ 1986年、1990年のワールドカップに出場。
FW 10 G・リネカー 1986年、1990年のワールドカップに出場し、1986年は得点王。1980年代から1990年代前半のイングランドを代表するストライカー。後にJ・リーグの名古屋グランパスに選手として在籍。
FW 21 S・ブル △58分 1990年のワールドカップに出場。
MF 17 D・プラット △64分 1990年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のイングランドを代表するミッドフィルダー。
監督 B・ロブソン イングランドを代表する名将。1986年、1990年のワールドカップに監督として出場し、1990年はベスト4に導いている。1992年に就任したポルトガルのスポルティング・リスボンの監督時の通訳が、のちに世界的名将となるJ・モウリーニョである。その後FCポルト、バルセロナの監督時にもアシスタントコーチとして呼んでいる。
出場選手(オランダ)
GK 1 H・ファン・ブロイケレン 1990年のワールドカップに出場。
DF 2 B・ファン・アーレ 1990年のワールドカップに出場。
DF 4 R・クーマン 1990年、1994年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のオランダを代表する名リベロ。現オランダ代表監督。
DF 3 F・ライカールト 1990年、1994年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のオランダを代表するオールラウンドミッドフィルダー。後にオランダ代表監督に就任。バルセロナの監督時代にメッシをプロデビューさせている。
DF 5 A・ファン・ティヘレン 1990年のワールドカップに出場。
MF 6 J・ボウタース 1990年、1994年のワールドカップに出場。
MF 10 R・フリット Ⓒ 1990年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のオランダを代表するスタープレイヤー。1987年にバロンドール受賞。
MF 11 R・ビツィヘ 1990年、1994年のワールドカップに出場。
FW 14 J・ファント・シップ ▼74分 1990年のワールドカップに出場。
FW 9 M・ファン・バステン 1990年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のオランダを代表する史上最高のストライカー。後にオランダ代表監督に就任し、2006年のワールドカップに監督として出場。1988年、1989年、1992年にバロンドール受賞。
FW 17 H・ヒルハウス 1990年のワールドカップに出場。
FW 12 W・キーフト △74分 1990年のワールドカップに出場。
監督 L・ベーンハッカー 1990年のワールドカップに監督として出場。
試合結果
イングランド 0-0 オランダ
得点 なし