両国の勝ち上がり状況
2年前の自国開催のEURO1984を制し、欧州王者として臨むフランスはグループCに入り、2勝1分でソ連と並んだが得失点差で下回り2位通過となった。決勝トーナメント1回戦でディフェンディングチャンピオンのイタリアを2-0で下し、準々決勝では事実上の決勝といわれたブラジル戦を1-1の延長PK戦の末に下して準決勝に進出してきた。準々決勝のブラジル戦は後世に語り継がれる名勝負となった。
一方、大会前の評価が低かった西ドイツはグループEに入り、苦戦しながらも1勝1敗1分の2位で際どく通過を果たした。決勝トーナメント1回戦で今大会の台風の目になっているモロッコを終了間際のマテウスのゴールで振り切り、準々決勝では開催国のメキシコをスコアレスのPK戦で下して準決勝に進出してきた。
こうして準決勝の組み合わせは、前回大会の準決勝で歴史に残る死闘を演じたフランス対西ドイツの再戦となった。
試合
下馬評でフランス有利といわれた一戦は、前半9分ペナルティエリア右外の位置で西ドイツがFKを獲得する。このFKをマガトがずらしてブレーメが蹴り込み、GKバツの脇下を抜けてフランスゴールに転がり込んでいった。思わぬ早い時間に失点を喫してしまったフランスは、ここからギアを上げて攻め込んでいく。
前半15分、今度はフランスがペナルティエリア右外でFKを獲得するとトリックプレーを使う。ジレスがゴール前に走り込んだプラティニに浮き球のパスを通し、プラティニがノートラップボレーを撃ったがGKシューマッハーが好セーブでボールを弾く。さらに詰めてきたボシスがシュートを放つがクロスバーを超えてしまいゴールにはならなかった。
その後はフランスがボールをキープして攻め込み、西ドイツがカウンターを狙う時間帯が続いたが、前半30分ごろからは西ドイツがペースを掴んでいった。ブリーゲル、ルンメニゲ、マテウスの3連続シュートや前半32分には、ルンメニゲ、マガトが立て続けにシュートを放ち、フランスゴールを脅かすがGKバツの好セーブもあり、前半は1-0の西ドイツリードでハーフタイムに入っていった。
後半に入り、フランスが立て続けにFKを獲得するがいずれもゴールにはならず、フランスがボールキープする時間帯が続いていく。しかし、開始早々の失点が思いのほか重くのしかかり、フランスの攻撃にキレがなく西ドイツディフェンスは落ち着いて対処していた。時間の経過とともに焦りもあってか、フランスの攻撃は西ドイツディフェンスのオフサイドトラップの網に再三引っ掛かってしまう。
そして試合終了間際にカウンターから交代出場したフェラーが、止めの2点目をフランスゴールに押し込み試合を決定づけた。結局2-0で西ドイツが勝ち、2大会連続で決勝に進出を決めた。
その後の両国
前回大会準決勝の再戦となったこの試合に再び勝利した西ドイツは2大会連続で決勝に進出した。相手は今大会話題を独占しているスーパースター・マラドーナ率いるアルゼンチン。試合は2点先制された西ドイツが驚異の粘りで同点に追いついたが、最後は決勝点をアシストしたマラドーナのスルーパスにやられて2大会連続の準優勝に終わった。
そして大会前の下馬評が低ったチームを決勝まで導いたベッケンバウアー監督の元、2年後の自国開催のEURO1988、4年後のワールドカップイタリア大会に向けて、世代交代してチームの底上げを図っていくことになる。
一方前回大会同様、準決勝で西ドイツに行く手を阻まれたフランスは、今大会限りでエース・プラティニを筆頭に1982年のワールドカップ4位、1984年のEURO優勝、1986年のワールドカップ3位のメンバーが代表を去り、こちらも世代交代を図っていくことになる。
しかし、フランスはプラティニ世代が代表を去って以降はチーム力が低迷し、2年後のEUROと4年後のワールドカップは本大会出場を逃し、暗黒時代に突入していくことになる。そしてフランスサッカー史上最も悲劇的な敗戦を喫することになる1994年のワールドカップアメリカ大会欧州予選のブルガリア戦まで続くことになる。つまりフランスは今大会以降、2大会連続でワールドカップ本大会出場を逃し、次に登場するのは12年後の1998年自国開催のワールドカップフランス大会となるのである。
出場選手(フランス)
GK 1 J・バツ 1986年のワールドカップに出場。1970年代後半から1980年代のフランスを代表するゴールキーパー。
DF 2 M・アモロス 1982年、1986年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のフランスを代表するディフェンダー。
DF 3 W・アヤシュ 1986年のワールドカップに出場。
DF 6 M・ボシス 1978年、1982年、1986年のワールドカップに出場。
DF 4 P・バティストン 1978年、1982年、1986年のワールドカップに出場。
MF 9 L・フェルナンデス 1986年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のフランスを代表するミッドフィルダー。
MF 12 A・ジレス ▼72分 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代から1980年代のフランスを代表するミッドフィルダー。
MF 14 J・ティガナ 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代後半から1980年代のフランスを代表するミッドフィルダー。
MF 10 M・プラティニ Ⓒ 1978年、1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代から1980年代のフランスを代表する史上最高の選手の一人。後にフランス代表監督に就任し、UEFA会長にも就任する。1983年、1984年、1985年にバロンドール受賞。
FW 16 B・ベロン ▼66分 1982年、1986年のワールドカップに出場。
FW 19 Y・ストピラ 1986年のワールドカップに出場。
FW 20 D・シュエレブ △66分 1986年のワールドカップに出場。
MF 15 P・ヴェルクライス △72分 1986年のワールドカップに出場。
監督 H・ミシェル フランスを代表する名将の一人。1978年に選手として1986年に監督としてワールドカップに出場し、1986年は3位に導いている。
出場選手(西ドイツ)
GK 1 H・シューマッハー 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代から1980年代のドイツを代表する史上最高のゴールキーパーの一人。
DF 4 K・H・フェルスター 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代後半から1980年代のドイツを代表するストッパー。
DF 6 N・エデル 1986年のワールドカップに出場。
DF 17 D・ヤコブス 1986年のワールドカップに出場。
DF 2 H・P・ブリーゲル 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代後半から1980年代のドイツを代表するディフェンダー。
DF 3 A・ブレーメ 1986年、1990年、1994年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のドイツを代表する左サイドバック。
MF 21 W・ロルフ 1986年のワールドカップに出場。
MF 10 W・マガト 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代から1980年代のフランスを代表するミッドフィルダー。
MF 8 L・マテウス 1982年、1986年、1990年、1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代のドイツを代表する史上最高の選手の一人。1990年にバロンドール受賞。
FW 11 K・H・ルンメルゲ Ⓒ ▼57分 1978年、1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代から1980年代のドイツを代表する史上最高の選手の一人。1980年、1981年にバロンドール受賞。
FW 19 K・アロフス 1986年のワールドカップに出場。
FW 9 R・フェラー △57分 1986年、1990年、1994年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のドイツを代表するストライカー。後にドイツ代表監督に就任し、2002年の日韓ワールドカップに監督として出場し準決勝に導いている。
監督 F・ベッケンバウアー 1960年代後半から1980年代前半のドイツを代表する史上最高のスーパースター。1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場し、1974年はキャプテンとして優勝に貢献。1986年、1990年のワールドカップに監督として出場し、1990年は優勝に導いている。また選手と監督の両方でワールドカップを制覇。1972年、1976年にバロンドール受賞。
試合結果
フランス 0-2 西ドイツ
得点 A・ブレーメ(西ドイツ) 9分
R・フェラー(西ドイツ) 90分