ここまでの欧州予選グループ7
1986年にメキシコで開催されるワールドカップ本大会出場権を巡って行われている欧州予選グループ7は、EURO1984準優勝のスペイン、スコットランドとウェールズの英国勢、アイスランドの4カ国で争われており、1位が出場権を獲得して2位がプレーオフに回ることになる。
そして両国の対戦は最終戦に組み込まれており、この時点で両国とスペインの3カ国が3勝2敗の勝点6で並んでいた。得失点差で1位がスコットランド、2位がウェールズ、3位がスペインとなっていた。3位のスペインは最終戦をホームでアイスランドと対戦する為、スペインが敗れることは考えにくく、実質的に2位以上の枠を1つ確定していた。
そのことを踏まえると両国の勝ち抜け状況は、スコットランドは引き分け以上で2位以上が確定し、ウェールズは勝利以外は予選敗退が現実味を帯びてくることになっていた。
試合
ワールドカップ本大会出場権争いは最終章を迎え、ウェールズはホームのニニアン・パークでスコットランドを迎え撃つことになった。スコットランドはスーネスが出場停止で、この大一番の最終戦をキャプテン抜きで戦うことを余儀なくされていた。試合は開始2分にヒューズがマクリーシュに激しいタックルを仕掛けると、早速両軍入り乱れての揉み合いになった。
立ち上がりはアウェーのスコットランドが攻め込み前半11分、自陣エリアからのロングフィードに反応したスピーディがドリブルで持ち込んでシュートまでいったが枠を外れてしまった。すると13分にウェールズが左サイドのスローインから、競り合ったボールを拾ったニコラスがゴール前に低いクロスを入れ、ヒューズが合わせてスコットランドゴールに蹴り込んでウェールズが先制点を挙げた。
先制したウェールズはさらに19分、右サイドからジョーンズがゴール前にクロスを上げてジェームスが頭で合わせたが枠を外れて追加点とはならず、その後しばらくは一進一退の攻防が続いていった。
そして前半38分、再び右サイドからジョーンズがゴール前にクロスを入れ、これをGKレイトンがジェームスと競り合ってパンチングで防いだ。しかし、そのこぼれ球をヴァン・デン・ハウウェが頭でゴール前に上げると、再びGKレイトンとジェームスが競り合って倒れながらもレイトンが防ぎ切った。
スコアは動かないまま前半終了間際の44分、ウェールズのジャケットがスコットランドペナルティエリア内にクロスを放り込み、何でもないボールだったがGKレイトンが目測を誤ってこぼしてしまい、ヒューズの前に飛んだがレイトンが何とか凌いで事なきを得た。そして前半が終了し、1-0でホームのウェールズリードでハーフタイムに入っていった。
後半開始前にスコットランドは、前半終了間際に不安定なプレーをしたGKレイトンを下げてラフをピッチに送ることになった。このレイトンの交代は、実は試合中にコンタクトレンズを紛失してしまい代替えもなかったためであり、これで交代枠を1つ使うことを余儀なくされてしまった(おそらく前半38分の競り合いの時と思われる)。
さらにスコットランドのスタイン監督は勝負に出て後半61分に、エース・ストラカンに代えてクーパーを投入して打開を図ってきた。直後の63分に左サイドからのスローインからクーパーにボールが渡り、クーパーがドリブルでペナルティエリア内に侵入してシュートを撃ったが枠を外れてしまった。
その後しばらくは膠着状態になったが、後半76分にオフサイドラインを抜け出したスピーディがペナルティエリア内で倒されたがPKの判定にはならず。79分には左サイドからCKをクーパーが上げてラトクリフがヘディングで狙ったがGKサウスオールが防いでゴールにはならなかった。
スコットランドの猛攻が続いた後半81分、ウェールズペナルティエリア内でフィリップスがハンドをとられてしまい、スコットランドにPKが与えられた。このPKを交代で入ったクーパーが決めて遂にスコットランドが同点に追いつくことに成功した。
引き分けでは予選敗退が濃厚となってしまうウェールズはジェームスとトーマスを下げてラベルとブラックモアを投入して最後の攻撃を仕掛けていく。スコットランドも時折カウンターで対抗しながらウェールズの反撃を凌ぎ、試合は1-1のまま終了してスコットランドがグループ2位内を確定させた。
しかし、試合終了間際にスコットランド代表監督のスタイン監督が倒れ、多数の警官達にロッカールームに運ばれ懸命の治療が施こされたが、試合終了から30分後に帰らぬ人となってしまった。
その後の両国
28年ぶりの本大会出場を目指していたウェールズだが、ホーム・スコットランド戦を引き分けてしまい、2週間後に行われたスペインーアイスランド戦がスペインの勝利に終わったことで予選敗退が確定してしまった。ウェールズにとっては2大会連続で最終戦で逆転されたことになり、2大会連続でアイスランド相手に勝点を取りこぼしたことが響いてしまった。
アウェー・ウェールズ戦を起死回生のPKでドローに持ち込んだスコットランドは、最終戦のスペインーアイスランド戦でスペインが勝ったことによりグループ2位が確定してプレーオフに回ることになった。そしてプレーオフの相手はオーストラリアに決まり、結果はホームで2-0で勝ちアウェーをスコアレスドローで乗り切り、4大会連続の本大会出場を決めることになった。
スタイン監督が急死したためプレーオフと本大会の指揮を執ったのはアシスタントコーチをしていたファーガソンであった。このファーガソン監督こそ本大会後にマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任して黄金時代を築き、ギグス、キーン、ベッカム、スコールズ、ネヴィル兄弟、クリスチャーノ・ロナウド、ルーニーなど、後のワールドクラスのスターを世に輩出していくことになる。
出場選手(ウェールズ)
GK 1 N・サウスオール 1980年代から1990年代のウェールズを代表する史上最高のゴールキーパーの一人。
DF 2 J・ジョーンズ
DF 5 P・ヴァン・デン・ハウウェ
DF 4 K・ラトクリフ Ⓒ
DF 3 K・ジャケット
MF 7 R・ジェームス ▼81分
MF 6 D・フィリップス
MF 8 P・ニコラス
MF 10 M・トーマス ▼83分
FW 11 M・ヒューズ 1980年代から1990年代のウェールズを代表するストライカー。後年ウェールズ代表監督に就任する。
FW 9 I・ラッシュ 1980年代から1990年代のウェールズを代表する史上最高の選手であり、欧州を代表するストライカーの一人。
FW 13 S・ラヴェル △81分
MF 15 C・ブラックモア △83分
監督 M・イングランド
出場選手(スコットランド)
GK 1 J・レイトン ▼46分 1986年、1990年、1998年のワールドカップに出場。
DF 2 R・ゴフ 1986年、1990年のワールドカップに出場。
DF 3 M・マルパス 1986年、1990年のワールドカップに出場。
DF 4 R・エイトケン 1986年、1990年のワールドカップに出場。
DF 5 A・マクリーシュ 1982年、1986年、1990年のワールドカップに出場。後年スコットランド代表監督に就任する。
DF 6 W・ミラー Ⓒ 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代から1980年代のスコットランドを代表するディフェンダー。
MF 7 S・ニコル 1986年のワールドカップに出場。
MF 8 G・ストラカン ▼61分 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代後半から1990年代前半のスコットランドを代表するミッドフィルダー。後年スコットランド代表監督に就任する。
MF 10 J・ベット 1986年、1990年のワールドカップに出場。
FW 9 G・シャープ 1986年のワールドカップに出場。
FW 11 D・スピーディ
GK 12 A・ラフ △46分 1978年、1982年のワールドカップに出場。
MF 16 D・クーパー △61分 1986年のワールドカップに出場。1970年代後半から1990年代前半のスコットランドを代表する史上最高の選手の一人。
監督 J・スタイン スコットランドを代表する史上最高の監督。1982年のワールドカップに監督として出場。
試合結果
1985年9月10日 ニニアン・パーク(カーディフ)
ウェールズ 1-1 スコットランド
得点 M・ヒューズ(ウェールズ) 13分
D・クーパー(スコットランド) 81分