大会前の両国の予選
EURO1984準優勝のスペインは欧州予選グループ7に入り、最終戦を前にスペイン、スコットランド、ウェールズの3カ国が3勝2敗で並び予断を許さない展開だったが、最終戦のアイスランド戦を逆転勝ちで下して3大会連続で本大会に出場してきた。一方のブラジルは南米予選グループ3に入り、首位で予選グループを突破して本大会に出場してきた。
両国は前回大会をともに不本意な形で終えており、スペインは開催国として臨んだ大会だったが2次リーグで敗退し、ブラジルは優勝候補の筆頭として臨んだが、こちろも2次リーグ敗退に終わっていた。そして両国は今大会グループリーグD組に入り、初戦で激突することになった。
試合
試合は立ち上がりにカレカが左サイドを突破したところをフリオ・アルベルトが激しいチャージで止めて始まった。フリオ・アルベルトは早々の4分にイエローカードを貰い激しい展開になるかと思われたが、その後は意外に淡々と時間が経過していった。
お互いにペナルティエリア内でのチャンスは皆無に等しく、ブラジルは4回ほどFKを直接狙ったぐらい、スペインはロングフィードでブトラゲーニョのスピードを生かした攻撃を仕掛けていったが、効果的なチャンスとはならなかった。唯一36分に、ブラジルのエルゾのミドルシュートが枠内に飛んだくらいで、これはGKスビサレータがセーブして得点にはならなかった。
そして前半終了のホイッスルがなるとサポーターからは低調な試合内容へのブーイングが響き渡り、スコアレスのままハーフタイムに入っていった。
後半に入るとブラジルがボールをキープして始まったが、52分にスペインが左サイドでCKを獲得してビクトル・ムニョスがブラジルペナルティエリア内にクロスを上げ、マセダが頭で折り返したところをミッチェルが胸トラップからボレーシュートを放ち、クロスバーを直撃してゴールインしたが主審の判定はノーゴールとなった。これにはスペイン選手たちは猛抗議したが受け入れられず、この時代には当然ゴールラインテクノロジーもなく判定が覆ることはなかった。
そして後半54分、今度はブラジルが左サイドからのCKをジュニオールがスペインゴール前に上げ、エジーニョが合わせてゴールを割ったが、手を使って押し込んでいた為にゴール無効となった。このプレーにカードを出さない主審にスペイン選手たちが再び詰め寄っていった。
前半とは打って変わった展開になった後半62分、右サイドからジュニオールがドリブルでカットインしてカレカに渡し、カレカが振り向き様にシュートを撃つとクロスバーに直撃し、跳ね返ったボールをソクラテスが頭で押し込んでブラジルが先制点を挙げた。その後もブラジルが交代で入ったミューレル、カレカ、アレマンがそれぞれシュートを撃ったが追加点にはならなかった。
先制されたスペインはセットプレーからチャンスを作り、82分にCKのこぼれ球をミッチェルがボレーシュートを、84分にはFKからゴイコエチェアがヘディングでそれぞれゴールを狙ったが外れてしまった。試合終了間際の88分に左サイドからビクトル・ムニョスがクロスを上げてカマーチョが体ごと合わせたがGKカルロスにセーブされて同点にはならなかった。
結局試合は1-0で終了してブラジルが初戦を白星でスタートすることになった。一方のスペインは不運な判定に泣かされ、大会を黒星でスタートすることになった。
その後の両国
不運な判定で初戦を落としたスペインだったが残る2戦、北アイルランド戦とアルジェリア戦に連勝してグループを2位で通過した。決勝トーナメント1回戦では今大会旋風を起こしていたデンマークをブトラゲーニョの4ゴールを含む5-1で大勝して準々決勝に進出した。準々決勝のベルギー戦は1-1のまま延長PK戦の末に敗れて準決勝進出とはならなかった。
初戦を幸運な形で白星スタートとなった優勝候補の一角ブラジルは、残る2戦も勝利して3戦全勝でグループを首位で通過した。決勝トーナメント1回戦ではポーランドを4-0で快勝して準々決勝に進出した。準々決勝のフランス戦は後世に残る名勝負となったが、1-1の延長PK戦の末に敗れて準決勝進出とはならなかった。
余談
サッカー王国のブラジルはこれまでのワールドカップ本大会、全22回に全出場している唯一の国家である。そしてスペインは1978年大会から12大会連続、通算16回の出場を誇るサッカー大国である。しかし、この両国のワールドカップでの対戦は、意外にも現時点でこの試合が最後となっている。もし、2026年北米共催のワールドカップで対戦することになれば実に40年ぶりとなり、ぜひ実現してもらいたいカードである。
出場選手(スペイン)
GK 1 A・スビサレータ 1986年、1990年、1994年、1998年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代のスペインを代表する史上最高のゴールキーパーの一人。
DF 2 トマス 1986年のワールドカップに出場。
DF 3 J・A・カマーチョ Ⓒ 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代から1980年代のスペインを代表する左サイドバック。後年スペイン代表監督に就任し、2002年のワールドカップに監督として出場。
DF 4 A・マセダ 1982年、1986年のワールドカップに出場。
DF 5 ビクトル・ムニョス 1986年のワールドカップに出場。
DF 8 A・ゴイコエチェア 1986年のワールドカップに出場。マラドーナを骨折させた選手。
MF 11 フリオ・アルベルト 1986年のワールドカップに出場。
MF 17 フランシスコ ▼82分 1986年のワールドカップに出場。
MF 21 ミッチェル 1986年、1990年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代のスペインを代表するミッドフィルダー。
FW 19 フリオ・サリナス 1986年、1990年、1994年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代のスペインを代表するセンターフォワード。後年J・リーグの横浜マリノスに選手として在籍する。
FW 9 E・ブトラゲーニョ 1986年、1990年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代のスペインを代表する史上最高のストライカーの一人。
MF 7 J・セニョール △82分 1986年のワールドカップに出場。
監督 M・ムニョス スペインを代表する史上最高の監督の一人。1986年のワールドカップに監督として出場。
出場選手(ブラジル)
GK 1 カルロス 1986年のワールドカップに出場。
DF 2 エドソン 1986年のワールドカップに出場。
DF 4 エジーニョ Ⓒ 1978年、1982年、1986年のワールドカップに出場。
DF 14 ジュリオ・セザール 1986年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代のブラジルを代表する史上最高のセンターバックの一人。
DF 17 ブランコ 1986年、1990年、1994年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代のブラジルを代表する史上最高の左サイドバックの一人。
MF 19 エルゾ 1986年のワールドカップに出場。
MF 15 アレマン 1986年、1990年のワールドカップに出場。
MF 6 ジュニオール ▼79分 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代から1980年代のブラジルを代表する左サイドバック。
MF 18 ソクラテス 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代から1980年代のブラジルを代表する史上最高のオフェンシブミッドフィルダーの一人。元ブラジル代表キャプテン・ライーは実弟である。
FW 8 W・カサグランデ ▼66分 1986年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代前半のブラジルを代表するセカンドストライカー。
FW 9 カレカ 1986年、1990年のワールドカップに出場。1980年代から1990年代のブラジルを代表する史上最高のストライカーの一人であり、南米を代表するストライカーの一人。後年J・リーグの柏レイソルに選手として在籍する。
FW 7 ミューレル △66分 1986年、1990年、1994年のワールドカップに出場。1980年代後半から1990年代のブラジルを代表するストライカー。後年J・リーグの柏レイソルに選手として在籍する。
MF 5 ファルカン △79分 1982年、1986年のワールドカップに出場。1970年代から1980年代のブラジルを代表する史上最高選手の一人であり、南米を代表する史上最高の選手の一人。後年ブラジル代表監督と日本代表監督に就任する。
監督 T・サンターナ ブラジルを代表する史上最高の監督の一人。1982年、1986年のワールドカップに監督として出場。
試合結果
1986年6月1日 エスタディオ・ハリスコ(グアダラハラ)
スペイン 0-1 ブラジル
得点 ソクラテス(ブラジル) 62分