イタリアの勝ち上がり状況
2年前のユーロを制した欧州王者イタリアはグループリーグで南米王者のウルグアイ、スウェーデン、イスラエルと同組のグループ2に入り、初戦でスウェーデンと対戦して1-0で勝利して白星で大会のスタートを切った。第2戦では南米王者のウルグアイと対戦してスコアレスの0-0のドローで終わった。
最終戦のイスラエル戦もスコアレスのドローで終わり、グループリーグを1勝2分の首位で通過して準々決勝に進出した。そして準々決勝では開催国のメキシコと対戦して4-1で快勝し、実に32年ぶりに準決勝に進出を決めた。
西ドイツの勝ち上がり状況
前回大会準優勝の西ドイツはグループリーグでペルー、ブルガリア、モロッコと同組のグループ4に入り、初戦のモロッコ戦を2-1の逆転勝ちで大会を白星でスタートした。第2戦ではブルガリアと対戦してミュラーのハットトリックを含む5-2で快勝して早々にグループリーグ通過を決めた。そして最終戦のペルー戦もミュラーの2試合連続のハットトリックで3-1で勝利し、グループリーグを3戦全勝の首位で通過して準々決勝進出を決めた。
準々決勝ではイングランドと対戦して前回大会決勝の再戦となり、歴史に残る名勝負を演じて3-2の大逆転勝利でリベンジを果たし、2大会連続の準決勝進出を決めた。
こうして準決勝のカードはイタリア対西ドイツの顔合わせとなり、イタリアが勝てば32年ぶり3回目、西ドイツが勝てば2大会連続3回目の決勝進出となる。
試合(前半)
8分 イタリアが中盤でボールを受けたボニンセーニャがワンツーからシュートを打って西ドイツゴールに突き刺してイタリアが先制点を挙げる。(イタリア1-0西ドイツ)
13分 イタリアのドメンギーニがミドルシュートを打ったが枠を外れてゴールならず。
17分 西ドイツのベッケンバウアーがドリブルで持ち上がり、イタリアペナルティエリア内でファケッティに倒されたがPKならず。
23分 イタリアのドメンギーニがシュートを打ったがGKマイヤーがセーブしてゴールならず。
30分 西ドイツのパツケが打ったシュートがミュラーに渡り、そのままミュラーがシュートを打ったが枠を外れてゴールならず。
33分 西ドイツのグラボウスキーがミドルシュートを打ったがGKアルベルトージがパンチングでセーブしてゴールならず。
37分 西ドイツのベッケンバウアーがミドルシュートを打ったが枠を外れてゴールならず。
38分 イタリアのロザートがゼーラーを倒してイエローカードを貰う。
試合は開始早々の8分にボニンセーニャがシュートを決めてイタリアが先制点を挙げた。その後もイタリアペースで進んでいったが、15分頃からお互い一進一退の展開となっていった。30分頃からは西ドイツがチャンスを作っていったが、イタリアディフェンスが固く得点を奪うことは出来なかった。そして前半は1-0のままイタリアリードで終了し、ハーフタイムに入っていった。
試合(後半)
46分 イタリアがマッツォーラを下げてリヴェラを投入。
48分 西ドイツのベッケンバウアーからのパスを受けたゼーラーがシュートを打ったがGKアルベルトージにセーブされてゴールならず。
50分 イタリアのドメンギーニが右サイドで西ドイツボールをカットして持ち上がり、西ドイツペナルティエリア内にクロスを上げてリーヴァが頭で合わせたがGKマイヤーがセーブしてゴールならず。
51分 西ドイツのシュルツが中央からイタリアペナルティエリア内にクロスを入れ、ゼーラーがオーバーヘッドキックで狙ったが枠を外れてゴールならず。
52分 西ドイツがレーアを下げてリブダを投入。
53分 西ドイツのオヴェラートがドメンギーニとの競り合いでファウルを取られ、抗議をしたことによりイエローカードを貰う。
63分 西ドイツのリブダが右サイドからファケッティをかわしてシュートを打ったがGKアルベルトージにセーブされてゴールならず。
64分 西ドイツのグラボウスキーが左サイドから折り返し、オヴェラートがシュートを打ったがクロスバーを直撃して惜しくもゴールならず。
66分 西ドイツのベッケンバウアーが中央をドリブルで突破し、ペナルティエリアライン付近でファウルを受けて倒されたが、ファウルを受けた位置はペナルティエリア外だった。これに抗議したミュラーがイエローカードを貰う。なお、このファウルの際に転倒したベッケンバウアーが肩を脱臼してしまい、この事実を知る前に西ドイツは最後の交代枠でパツケを下げてヘルトを投入する。
70分 西ドイツのオヴェラートが右サイドからドリブルでカットインしてヘルトにパスを出し、ヘルトがシュートを打ったがイタリアDFが必死のクリアでゴールならず、さらにそのこぼれ球をミュラーがシュートを打ったが枠を外れてゴールならず。
73分 イタリアのGKアルベルトージが遅延行為でイエローカードを貰う。
89分 イタリアのドメンギーニからのクロスをリーヴァがヘディングで合わせたがGKマイヤーがセーブしてゴールならず。
90分 西ドイツ右サイドのCKからゼーラーが頭で合わせたがGKアルベルトージがセーブしてゴールならず。
90分+2分 西ドイツのグラボウスキーが左サイドからクロスを上げ、シュネリンガーが合わせてイタリアゴールに押し込み、西ドイツが土壇場で同点に追いつく。(イタリア1-1西ドイツ)
後半に入ると開始早々からオープンな展開となって攻守の入れ変わりが激しくなっていった。60分過ぎからは追いかける西ドイツが猛攻を仕掛けていき、次々とイタリアゴールを襲っていったがなかなか同点に追いつくことが出来ず、66分にはベッケンバウアーが肩を脱臼するなど苦しい状況が続いていった。そして後半アディショナルタイムに入り、万事休すと思われた92分にシュネリンガーが起死回生の同点ゴールを挙げて土壇場で追いつき、勝負の行方は延長戦まで縺れることになった。
試合(延長戦)
91分 イタリアがロザートを下げてポレッティを投入。
92分 西ドイツのリブダが右サイドからクロスを上げ、ミュラーが頭で合わせたがGKアルベルトージにセーブされてゴールならず。
94分 西ドイツの右サイドのCKからリブダがイタリアペナルティエリア外にクロスを上げ、ゼーラーが頭で落としたボールをポレッティとGKアルベルトージが処理を戸惑っている間にミュラーが奪ってイタリアゴールに押し込み、西ドイツが逆転に成功する。(イタリア1-2西ドイツ)
98分 イタリアがゴールまで約30mのFKをリヴェラが西ドイツペナルティエリア内に浮き球のボールを上げ、ヘルトのクリアミスからブルグニッチが西ドイツゴールに押し込み、イタリアが同点に追いついた。(イタリア2-2西ドイツ)
103分 イタリアのデ・システィがヘルトを倒してイエローカードを貰う。
104分 イタリアがカウンターからリヴェラが左サイドのドメンギーニにパスを出し、ドメンギーニがワンタッチで折り返し、折り返したボールをリーヴァが西ドイツゴールに蹴り込んで、イタリアが再逆転でリードを奪った。(イタリア3-2西ドイツ)
109分 西ドイツが左サイドのFKからオヴェラートがクロスを上げ、ゼーラーが頭で合わせたがGKアルベルトージがセーブしてゴールならず。
110分 西ドイツが右サイドのショートコーナーからリブダがクロスを上げ、ゼーラーが頭で折り返したボールをミュラーがさらに頭でイタリアゴールに押し込み、西ドイツが再び同点に追いつく。(イタリア3-3西ドイツ)
111分 イタリアのファケッティが縦パスでボニンセーニャに通し、ボニンセーニャが折り返したボールをリヴェラが西ドイツゴールに蹴り込み、イタリアが再び勝ち越しに成功する。(イタリア4-3西ドイツ)
113分 イタリアのドメンギーニが遅延行為でイエローカードを貰う。
延長に入る前にベッケンバウアーは右腕をテーピングで固定してピッチに入り、勝負への執念を見せ、ここから歴史的死闘のドラマの幕が上がった。94分にミュラーがゴールを挙げて西ドイツが逆転すると、98分にブルグニッチが得点を挙げてイタリアが同点に追いつく。104分にはリーヴァがゴールを挙げてイタリアが再逆転すると、粘りを見せる西ドイツが109分にミュラーが得点を挙げて再び同点に追いつく。そして決着のゴールはイタリアのリヴェラが、111分にゴールを挙げてイタリアが勝ち越し、壮絶な死闘に幕を閉じた。
その後の両国
歴史的死闘を制した欧州王者イタリアは、32年ぶりに決勝に進出を決めてブラジルと対戦することになった。しかし決勝では歴史的死闘の疲労もあったが、ブラジルに1-4の大敗で敗れて準優勝に終わった。しかし、戦前の1938年に優勝して以降、戦後は全てグループリーグ敗退に終わっていたイタリアだったが、この大会で久しぶりに好成績を上げてサッカー大国復活を印象付けることになった。
準々決勝のイングランド戦、準決勝のイタリア戦と欧州のライバル国達と歴史的名勝負を演じた西ドイツだったが、惜しくも決勝進出を逃して大会を3位で終えることになった。しかしこの大会以降、2年後のユーロ、そして4年後の自国開催のワールドカップで西ドイツは優勝を果たして黄金時代に突入することになっていく。
この歴史的死闘は歴代ワールドカップの名勝負に必ずランクインする試合であり、半世紀以上たった現在でも語り継がれている試合である。そして死闘となったスタジアムにちなんで「アステカの死闘」と呼ばれている。
出場選手(イタリア)
GK 1 E・アルベルトージ 1966年、1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高のゴールキーパーの一人。
DF 2 T・ブルグニッチ 1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高のディフェンダーの一人。
DF 3 G・ファケッティ Ⓒ 1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高の左サイドバックであり、欧州を代表する史上最高の左サイドバックの一人。
DF 5 P・セラ 1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表するディフェンダー。
DF 8 R・ロザート ▼91分 1966年、1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高のディフェンダーの一人。
MF 10 M・ベルティーニ 1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表するミッドフィルダー。
MF 15 S・マッツォーラ ▼46分 1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高の選手の一人であり、欧州を代表する史上最高の選手の一人。イタリア史上最高の選手の一人であるヴァレンティノ・マッツォーラは実父である。
MF 16 G・デ・システィ 1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高のミッドフィルダーの一人。
FW 13 A・ドメンギーニ 1970年のワールドカップに出場。
FW 20 R・ボニンセーニャ 1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表するストライカー。
FW 11 L・リーヴァ 1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高の選手の一人であり、欧州を代表するストライカーの一人。
MF 14 G・リヴェラ △46分 1962年、1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代のイタリアを代表する史上最高の選手の一人であり、欧州を代表する史上最高の選手の一人。1969年にバロンドール受賞。
DF 4 F・ポレッティ △91分 1970年のワールドカップに出場。
監督 F・ヴァルカレッジ 1970年、1974年のワールドカップに監督として出場。
出場選手(西ドイツ)
GK 1 S・マイヤー 1966年、1970年、1974年、1978年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代の西ドイツを代表する史上最高のゴールキーパーであり、欧州を代表する史上最高のゴールキーパーの一人。
DF 7 B・フォクツ 1970年、1974年、1978年のワールドカップに出場。1960年代中盤から1970年代の西ドイツを代表するディフェンダー。後年ドイツ代表監督に就任し、1994年と1998年のワールドカップに監督として出場。
DF 3 K・H・シュネリンガー 1958年、1962年、1966年、1970年のワールドカップに出場。1950年代終盤から1970年代初頭の西ドイツを代表するディフェンダー。
DF 5 W・シュルツ 1962年、1966年、1970年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代初頭の西ドイツを代表する史上最高のスイーパーの一人であり、欧州を代表する史上最高のスイーパーの一人。
DF 15 B・パツケ ▼66分 1966年、1970年のワールドカップに出場。
MF 4 F・ベッケンバウアー 1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代中盤から1980年代初頭の西ドイツを代表する史上最高の選手であり、世界を代表する史上最高の選手の一人。後年西ドイツ代表監督に就任して1986年と1990年のワールドカップに監督として出場し、1990年は優勝に導いている。1972年、1976年にバロンドール受賞。
MF 12 W・オヴェラート 1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代から1970年代の西ドイツを代表する史上最高のオフェンシブミッドフィルダーの一人。
FW J・グラボウスキー 1966年、1970年、1974年のワールドカップに出場。1960年代中盤から1970年代の西ドイツを代表するオフェンシブミッドフィルダー。
FW U・ゼーラー Ⓒ 1958年、1962年、1966年、1970年のワールドカップに出場。1950年代から1970年代初頭の西ドイツを代表する史上最高の選手の一人。
FW G・ミュラー 1970年、1974年のワールドカップに出場し、1970年は得点王。1960年代中盤から1970年代の西ドイツを代表する史上最高のストライカーであり、欧州を代表する史上最高のストライカーの一人。1970年にバロンドール受賞。
FW H・レーア ▼52分 1970年のワールドカップに出場。
MF 14 R・リブダ △52分 1970年のワールドカップに出場。
MF 10 S・ヘルト △66分 1966年、1970年のワールドカップに出場。後年J・リーグのガンバ大阪に監督として在籍する。
監督 H・シェーン 西ドイツを代表する史上最高の監督。1966年、1970年、1974年、1978年のワールドカップに監督として出場し、1974年は優勝に導いている。
試合結果
1970年6月17日 エスタディオ・アステカ(メキシコシティ)
イタリア 4-3 西ドイツ
得点 R・ボニンセーニャ(イタリア) 8分
K・H・シュネリンガー(西ドイツ) 90分+2分
G・ミュラー(西ドイツ) 94分
T・ブルグニッチ(イタリア) 98分
G・リーヴァ(イタリア) 104分
G・ミュラー(西ドイツ) 110分
G・リヴェラ(イタリア) 111分